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ニュースレター

2016年08月30日
平和・人権
有村 とく子

お試し改憲がやってくる!? ―憲法に「緊急事態条項」を創設することの意味を考える               【弁護士 有村 とく子】

【「改憲勢力」が3分の2以上に】

7月10日の参議院議員選挙の結果、改憲に前向きな自民党、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党の3党と、「加憲」を掲げる公明党の4党で議席の3分の2を占めました。憲法の改正は、衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し、国民に提案して過半数の承認が得られれば可能となります(日本国憲法96条第1項)。いわゆる改憲勢力に属する人々は、今回の選挙戦では「憲法改正」を前面に出すことなく票を集め憲法改正の発議ができる切符を手にしました。安保法制反対論議が若い世代の人々の間でも活発となり、18歳選挙権が認められて初めての今回の選挙、朝日新聞の出口調査でも、18、19歳は、憲法改正について「変える必要がある」が45%、「変える必要はない」が51%と、他の年代と比べると「変える必要はない」が一番高かったとされていましたが、蓋が開くとこんな結果です。

安倍首相は9条を改憲して日本が国防軍を持つことを強く望み、国会答弁では自分のことを「私は立法府の長」だと言いました。このような人が、行政府の長たる内閣総理大臣の地位に就いており、現政権を支える人々がいて、「戦争ができる国」にむけた企ては着実に進んでいます。

私は、2007(平成19)年夏のニュースレターで、同年5月に成立し2010(平成22)年に施行された国民投票法についてご紹介しました。この法律によれば、ひとたび憲法を変える法案を国会が発議すると、有権者のおよそ20%の賛成票で、国民の「過半数」の承認が得られたという事態になりかねません。いわゆる改憲勢力が3分の2を占めている今、改憲はいよいよ具体的日程に上り始めます。大ごとになる政治問題は、熟議のための題材が十分提供されないまま投票に持ち込まれ、後になって「しまった!そんなことになるのか!」と気づいても時すでに遅しとなります。

 

【なぜ「緊急事態条項」を作ろうとしているのか】

さて、いくら改憲勢力が3分の2を占めたとは言え、いきなり憲法9条を変えようとすれば、国民の反発は必至でしょうから、そんなことはしません。はじめは、改憲のお試しメニューを出します。そのひとつとして登場するのが、憲法に「緊急事態条項」を創設しよう、というものです。今年4月の熊本大地震のすぐ後に、官房長官は、「今回のような大規模災害が発生したような緊急時に、国民の安全を守るために国家や国民がどのような役割を果たすべきかを、憲法に位置付けるかは極めて重く大切な課題だ」と述べ、憲法に緊急事態条項を設ける必要性があることを強調しました。

2012(平成24)年4月に発表された「日本国憲法改正草案」の98条には「緊急事態の宣言」条項が明記されています。

第1項

内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言をすることができる。

第2項

緊急事態の宣言が発せられたときは法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。

 

また、上記の宣言があれば、内閣は緊急政令を制定することができ(99条1項)、国民には、公の機関の指示に服従する義務が課されます(同条3項)。

「大地震の時の緊急事態宣言」と聞けば、なんとなく「必要かも」と思ってしまいそうですが、我が国には、憲法にわざわざこのような条項を設けなくとも、たとえば災害については、「災害対策基本法」がすでにあって、一定事項について政令で個人の権利を制限できる規定が置かれてあります。外部からの武力攻撃(テロ)については、武力攻撃事態対処法などが事後対応を定め、出入国管理及び難民認定法にはテロリストの強制退去等の未然防止措置の定めがあります。

緊急事態条項が憲法に創設されると、内閣総理大臣が緊急事態だと宣言した場合に国会の立法権を一時停止し、内閣は立法権を獲得することができる、そのことを安倍首相は知っていたのでしょう。だから、自分は「立法府の長」だと、改憲前ではあるけれど、うっかり口を滑らせてしまったのだと思います。

自民党改憲草案98条によれば、「緊急事態」かどうかを判断するのは内閣総理大臣であり、「内乱等」と「等」がついていますので、政府の出す政策に反対するデモや大規模なストライキを指して、「社会秩序の混乱」が起きている、これは「緊急事態」だと判断することができます。このように、そのときの政権が緊急事態だととらえて「宣言」を発することができてしまうと、恣意的な運用がなされる危険が高くなります。国会の承認は、事後でもよいとされているため、国会による統制は実質的に機能しないことになります。

 

【自分にできることは何かを問い続ける】

昨年のニュースレターで私は、「憲法を知らない大人たちの暴走にストップを」と題し、戦争法案の危険性について書きました。着実に戦争ができるような法律が作られてきています。

この日本が「戦争ができる国」に、なんとなく進んでいくことの恐ろしさを肌で感じるようになりました。「誰の子どもも殺さない、誰の子どもも殺させない。」という言葉は、まさに日本国憲法の精神を現代的に言い換えたものではないでしょうか。この言葉を実現するためには、子どもの貧困をなくすこと、あらゆる差別をなくすことを中心に据えた政策への転換が必要であり、そのことで一致できる人のつながりが厚い層をなしていけば、社会の閉塞状況も少しはましになるのではないか。そんなことを思いつつ、自分にできることは何かを問い、試行錯誤の毎日を送っています。

 

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