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vol.10 新型コロナ危機と「100年の計」

遠い武漢のことだと思っていたら、あっという間に世界を恐怖に陥れた新型コロナウイルス。日本でも医療崩壊の危機が叫ばれつつあったが、世界各国からの映像は、目を覆うばかりだった。とりわけ世界一の感染者数・死亡者数を出しているアメリカの医療現場の実情に触れるたび、アメリカの救急医療の最前線で医師として働いておられる、乗井弥生弁護士の息子さんのことが気になった。乗井弁護士に尋ねると「アメリカは州によって政府の対応が違うのよ。息子のいるニューメキシコ州は、早期に緊急事態宣言を出して、厳しいルールで感染防止に努めているみたい」ということだったので、少し安心していた。

 

しかしそんな州のもとでも、やはり医療現場に従事する人々の努力は並大抵のものではないと思わされたのが、乗井弁護士から紹介された、乗井達守医師とニューヨーク州で勤務する日本人医師のインタビュー記事である(日本救急医学会HP・https://www.jaam.jp/info/2020/info-20200508.html)。

 

読むと、N95マスクの供給すら十分でない体制のもと、医療従事者たちの感染リスクをどのようにして防ぎ、どのようにして患者の命を救っていくのか、ギリギリの選択を強いられる医師たちの苦悩が伝わってくる。そんな中で、気になったことが、ひとつあった。医師たちは、今、この差し迫った危機を乗り越えようとしているときにも、病院の経営効率を考えなければならないという現実だ。乗井医師の勤務する大学病院では、救急、麻酔、集中治療室で有志を募り、24時間いつでも対応できる「挿管チーム」を作ったが、感染状況がコントロールできる状態になると、1日数例ぐらいしか呼ばれない「挿管チーム」は人件費的には悩ましいという。乗井医師は「感染者が増える時期は、どんどんリソースを投入したほうがいいけれど、一旦落ち着くとお金がどんどん流失し、喪失が多くなるので、そのバランスが難しいなと管理者としては感じる」と述べている。また病院は、新型コロナウイルス感染症の患者が多くを占めて、一般の患者が少なくなると、経営的に成り立たなくなると言う。

 

こんな医療現場の実情を知って、医療と経営効率のあり方に、思いめぐらせていると、5月29日の朝日新聞に「公的機関は『100年の計』で」と題する記事が載っていた。「無駄の謎」を研究してきたという数理物理学者の西成活裕氏は、「医療物資や人員、病床数などさまざまな不足が発生していますが、企業が存続をかけて、いつ起こるかも分からない危機に備えて余剰在庫を抱えることは、『目的』と『期間』に照らしあわせても不可能でしょう。だから、医療態勢や災害対応など生命に関わることは、公的機関がセーフティーネットになる必要があります。公的機関に、そんな余裕はない? いいえ、もし新型コロナが『100年に1度の危機』なら、『期間』を100年に設定してビジョンを描けば、平時は過剰と思える備えも、簡単には無駄という結論にならないはずです。結果的に捨てることになるものがあったとしても、『国民の生命を守る』ということが、国家の最優先の使命、つまり『目的』。それが、社会で共有される必要があります。」と述べている。

 

そうなのだ。セーフティーネットに携わる人々に、余剰在庫を抱えるリスクで頭を悩ませるようなことがあってはならないのだ。そのリスクは、100年の計を立てて、社会全体で引き受けるべきリスクなのだと、改めて思う。

 

弁護士 宮地光子

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