児童虐待と脳科学  【弁護士 宮地光子】

2017.07.26

子の面前でのDVで子の脳の発達に悪影響が

脳科学の発達はめざましい。虐待による精神的ダメージが、どのようにして生ずるのか、長らくそのメカニズムは明らかでなかった。しかし脳科学の進歩で、児童が虐待を受けると、脳の一部がうまく発達できなくなることが明らかになっている。

先日、NPO法人・TPC (ⅰ)教育サポートセンターの例会に参加して、この分野の研究の第一人者である友田明美教授(福井大学子どもの心の発達研究センタ―)のお話を聞く機会を得た。それを機に、同教授の論文 (ⅱ)や著作 (ⅲ)を紐解いてみた。その結果知り得たことは、DVによる被害をどのように裁判所に訴えれば理解してもらえるのだろうかと、日々腐心している私たちにとって、大変示唆に富むものであった。

例えば、子の面前でのDVが、子どもに与える影響についての研究結果が報告されていた。友田教授とアメリカのハーバード大学が共同で行った研究によれば、18歳から25歳までのアメリカ人男女について、子どもの頃に親のDVを目撃していた人と、暴力のない家庭で育った人の脳をMRI画像で調べて比較したところ、DVを目撃した経験のある人は、脳の視覚野とよばれる部分が、目撃しなかった人に比べて20.5%も小さくなっていることがわかった。 視覚野は、目から受ける情報を処理する脳の部位で、そこが損なわれると、視覚的な記憶力や知能、学習能力にも影響が出ると言われている。子どもの頃に親のDVを目撃することによる被害は、脳の発達への影響を介して、成人になっても続くのである。

さらに興味深いのは、DVの目撃と暴言による虐待の両方を受けた被虐待者たちは、身体的虐待や、その他の精神的虐待(ネグレクトなど)を受けた被虐待者たちより、大脳辺縁系(扁桃体・海馬など)の機能障害の程度がより重症であることがわかったことである。

 

脳のダメージは簡単には回復しない

前掲の角崎弁護士の報告「面会交流と『子の福祉』」にあるとおり、裁判所は、別居親と子どもとの面会交流は、原則として子の福祉に資するものと考え、別居親による激しい身体的暴力などの特別事情がない限り、面会交流を命じている。そして子の面前でのDVは、児童虐待防止法で虐待にあたるとされているにも関わらず、面会交流を禁止すべき特別事情とされたことは、私の経験でも一度もない。

ちなみにこの点について解説した裁判官の論文 (ⅳ)によれば「非監護親の監護親に対するDVによって子が精神的ダメージを受けており、現在もそのダメージから回復できていないような場合には、非監護親との面会交流は子の福祉を害するものといえ、面会交流を禁止・制限すべき事情があるということができると解される。」とされている。しかしこの精神的ダメージからの回復が、いとも容易く認められる(例えば試行的面会交流で、子どもが非監護親を怖がらなかったなど)ので、面前DVを理由にして、面会交流の禁止がなされることはまずないのである。

しかし先に紹介したとおり、DVの目撃が子どもの脳の発達に悪影響を及ぼすことが明らかになっていることを踏まえれば、このような裁判所の判断に合理性があるのか、沸々と疑問が湧いてくる。精神的ダメージからの回復は、脳の傷をいやすものでなければならず (ⅴ)、それは単なる時の経過で実現できるものではないからである。

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ⅰ TPCとは、Teacher Parents Childrenの略。

ⅱ 友田明美「児童虐待による脳への傷と回復へのアプローチ」自由と正義2015年6月号

ⅲ 友田明美「新版・いやされない傷」診断と治療社・86頁~

ⅳ 細矢郁ほか「面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り方―民法766条の改正を踏まえて」家裁月報64巻7号1頁

ⅴ 脳の傷をいやすことが可能であることについては、前掲注ⅲ記載・友田106頁~

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