110年ぶりの性刑法改正と今後の課題      【弁護士 雪田 樹理】

2018.01.16

1 110年ぶりの改正

昨年1月のニュースレターでご紹介した性犯罪に関する刑法改正案が、国会で可決され、平成29年7月13日に施行されました。明治40年(1907年)の制定から110年ぶりの改正です。改正の主な点を紹介します。

 

2 強かん罪から強制性交等罪へ

改正前の強かん罪は、「暴行又は脅迫」を用いて、13歳以上の「女子」を「姦淫」することとされ、被害者は女性のみ、男性器の女性器への挿入が要件とされていました。今回の改正により、被害者の性別は問わないことになり、「暴行又は脅迫」を用いて、「性交、肛門性交又は口腔性交」(これらを「性交等」と称します)することを「強制性交等罪」としました。また、法定刑が「3年以上」から「5年以上」の有期懲役に引き上げられました。

国会の附帯決議では、「強制性交等罪が被害者の性別を問わないものとなったことを踏まえ、被害の相談、捜査、公判のあらゆる過程において、被害者となり得る男性や性的マイノリティに対する偏見に基づく不当な取扱いをしないことを、関係機関等に対する研修等を通じて徹底させるよう努めること」とされました。改正に伴い、男性等被害者への相談や支援体制の整備が急務となっています。

男性も被害者とされ、処罰の対象となる行為が拡大されたことで、性中立性が実現され、ジェンダー平等が前進したといえます。

しかし、処罰の対象となる侵襲行為は「性交等」に限定され、物や手足指等の挿入による侵襲行為が除外されている点で不十分といえます。

 

3 非親告罪化

これまで強かん罪や強制わいせつ罪等は、被害者の名誉やプライバシーの保護を理由として、親告罪(被害者等の告訴がなければ起訴できない)とされていましたが、非親告罪になりました。

性犯罪を特別扱いしなくなったことで、被害者に対する偏見や被害者に自責の念を覚えさせる社会的風潮がなくなることが期待されますが、他方、被害者の意思の尊重やプライバシー保護など、被害者支援がこれまで以上に要求されます。被害者の二次被害の防止に関しても国会の附帯決議がされています。

 

4 監護者による性犯罪に関する規定の新設

18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者や性交等をした者は、暴行又は脅迫を用いない場合でも、「強制わいせつ罪」や「強制性交等罪」と同様に処罰されることになりました。

このような規定の新設の背景には、保護者等の監護者に精神的にも経済的にも依存して生活している子らが、その関係性ゆえに「暴行又は脅迫」がなくても繰り返し被害に遭っている性虐待の実態があります。

 

5 残された大きな課題

昨年のニュースレターでも指摘しましたが、被害者らが声高く改正を求めてきた「暴行又は脅迫」要件の撤廃又は緩和に関する法改正は実現しませんでした。

「些細な暴行・脅迫の前にたやすく屈する貞操のごときは保護されるに値しない」と解釈され、判例によって「相手方の抵抗を著しく困難にする程度」の「暴行又は脅迫」が必要とされ、被害女性に強い抵抗を要求してきた「暴行又は脅迫」の要件が維持されていることは、家父長制時代の強かん罪の性差別構造を温存したままといえます。

被害者の同意がなくとも、恐怖から心身が凍り付き、身がすくんで抵抗ができなかった場合や、生命の危険を感じて加害者のなすがままにされるしかなかった場合など、「暴行又は脅迫」の要件を満たさないとして、立件されないケースは後を絶ちません。

附帯決議により、「『暴行又は脅迫』や『抗拒不能』の認定について、被害者と相手方との関係性や被害者の心理をより一層適切に踏まえてなされる必要があるとの指摘がなされていることに鑑み、これらに関連する心理学的・精神医学的知見等について調査研究を推進するとともに、司法警察職員、検察官及び裁判官に対して、性犯罪に直面した被害者の心理等についてこれらの知見を踏まえた研修を行うこと」とされましたが、この点に関する抜本的な法改正が必要です。

今回の改正法には、3年後を目途にした見直しが盛り込まれています。今回は見送られた①「暴行又は脅迫」の撤廃又は緩和、②現行は13歳とされている性交同意年齢の引上げ、③公訴時効の撤廃や停止、④配偶者間の強かん罪の明記、⑤「監護者」以外の地位や関係性の利用など、さらなる法改正に向けた取組みの継続が求められています。

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