「働き方改革」と「同一労働同一賃金」  【弁護士 宮地光子】

2018.08.30

法案を通すための「誇大広告」

「『働き方改革』を断行する。誰もが能力を発揮できる、柔軟な労働制度へ抜本的に改革する。労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革だ。『同一労働同一賃金』実現の時が来た。働き方改革は成長戦略そのものだ。」

 

安倍首相が、このように施政方針演説で述べて、政権の最重要課題と位置付けた「働き方改革関連法案」が、6月29日参議院本会議で可決成立した。

しかし「柔軟な労働制度」という言葉は、労働時間規制をなくし、残業代ゼロ法案とも言われる「高度プロフェッショナル制度」を含む法案の問題点を覆い隠すためのものに過ぎない。

そして「『同一労働同一賃金』実現の時」というのも、法案を通すための「誇大広告」というほかないものだった。

 

「不合理な待遇」と判断する3つの要素

同一労働同一賃金原則の実現が求められるのは、正社員と、パート・有期契約労働者など非正規労働者との、賃金格差是正のためだったはずである。

働き方改革関連法の中で、この賃金格差是正に関係するのは、パートタイム労働法と労働者派遣法の改正だが、改正された法律の中に、「同一労働同一賃金原則」という言葉はどこにもない。従来のパートタイム労働法をパートタイム労働者だけでなく、有期雇用労働者にも適用されるものに改正し、この法律の中に、「不合理な待遇の禁止」を謳う条文が入ったが、その条文は、不合理な待遇にあたるかどうかを、以下の3つの要素で判断してよいとしている。

①職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)

②当該職務の内容及び配置の変更の範囲

③その他の事情

つまり職務の内容①が同じであるということだけでは同一賃金を要求できないのであって、職務の内容が変わることが予定されているかどうか、転勤が予定されているかなどの要素②が、正社員と同じでないと、同一賃金を要求できないうえに、企業は「その他の事情」③を主張して賃金格差を不合理な待遇にあたらないと主張することも可能になっているのである。

 

仕事の中身で判断しなければ、賃金差別はなくならない

この「その他の事情」に、どのような事情が含まれるのかを知る手掛かりになるのが、本年6月1日の最高裁第二小法廷による長澤運輸事件についての判決だ。

この事件は、60歳の定年退職後に、嘱託乗務員(有期労働契約)として同じ企業に再雇用された労働者が、①正社員には支給される能率給・職務給が支給されず、歩合給が導入されたこと、②正社員には支給される、精勤手当、住宅手当、家族手当、役付手当、賞与が支給されないこと、③時間外手当が、正社員の超勤手当よりも低く計算されることを、労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)に違反するとして争った裁判である。この裁判の原告らは、嘱託乗務員になっても、乗務員としての職務の内容は変わらないのに、上記①から③の措置で、賃金は定年前の79%に切り下げられた。

しかし最高裁が、嘱託乗務員と正社員との格差を違法として認めたのは、②のうちの精勤手当が支給されないことと、③の時間外手当が、正社員よりも低く計算されることだけであった。その他の格差は、原告らが、定年後に再雇用された者で、一定の要件を充たせば、老齢年金の支給を受けることも予定されていることなどが、前記の「その他の事情」③にあたり、正社員との間に格差があっても不合理ではないと判断した。

結局のところ、どのような仕事をしているかではなく、どんな人かどうか(定年後で老齢年金の支給を受けられる人かどうか)で、賃金が決定されても違法でないというのである。

これまでパート労働者の低賃金の理由として、「家計補助的労働だから」という、「やっている仕事」の中身ではなく、「何のために働いている人」かという説明が、企業や経済界によって、ずっとなされてきた。パート労働者の多くが、女性であったことから、このような賃金差別が温存されてきた。そのつけが、今、このような「働き方改革」を口実にしたまやかしの法改正となって回ってきたのだと思う。同一労働同一賃金原則実現への道のりは、まだまだ遠い。

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