ドキュメンタリー映画「ニッポン国vs泉南石綿村」 (原一男監督)を観ました  【弁護士 有村とく子】

2018.08.30

「泉南アスベスト国賠訴訟」

今年3月から大阪を皮切りに全国上映されている、「ニッポン国vs泉南石綿村」を観ました。上映時間が3時間半あまりの長編映画と前もって聞いてはいたものの、前半と後半の2部構成になっていたこと、人間の有り様という「現実」を否応なく突きつける内容・展開であったことから、「長さ」こそがむしろ大事なのだと観終わって思える、胸にずしんとくる映画でした。

2006年5月、大阪府の南端に位置する泉南地域の石綿工場の元労働者やその家族ら8人の原告は、アスベストによる健康被害を被った、これは、国が70年前から調査を行い、石綿の健康被害を把握していたにもかかわらず対策を怠った、その国に責任があるとして、国家賠償(損害賠償)を求めて大阪地方裁判所に訴訟を起こしました。これが2陣にわたる「泉南アスベスト国賠訴訟」の始まりです。

 

高裁での原告勝訴までの8年間

映画は、泉南地域がかつて石綿紡績業の集積地として栄え、工場が密集する一帯が「石綿村」と呼ばれていたこと、工場の多くは家族経営の零細企業で、劣悪な労働環境への対策がなされないまま、地方出身者(隠岐島、広島、淡路島等)や在日朝鮮人の労働者が多く従事していたこと、アスベストによる健康被害は工場の労働者のみならず、石綿を吸い込んだ周辺住民や労働者の家族(子ども)も石綿を吸い込み発症することがあること(これを「曝露」という)を最初に紹介します。

私は、泉南アスベスト国家賠償請求訴訟のことを知っていましたが、直接関わってはきませんでした。提訴前に弁護団結成の呼びかけがなされていたことを覚えていますが、当時の私にはそこに加わって活動できる力も自信も、恥ずかしながらありませんでした。

8年間に及ぶ裁判闘争とそれにまつわる人間模様を記録し続けた原監督は映画人という前に人として鋭い感性を持っておられると感銘を受けました。同時に、映画に登場する弁護士は、これまでの弁護団事件でご一緒させていただいたことのある先輩弁護士や、弁護士登録から6年間在籍してお世話になった前の事務所の先輩弁護士や若手弁護士、同じ会派の先輩・若手弁護士、顔見知りの弁護士の方たちでした。提訴から最高裁が原告勝訴の判決を出すまでの8年もの長きにわたり、こんなふうに活動しておられたのだと、大いに感銘を受けました。

提訴後次々に亡くなっていかれる原告の方(8年間で21人とのこと)やご家族の方と直接接し、聴き取りをしてこられただけに、その原告の方たちにこんなふうに言葉かけをしておられたのか、当事者の気持ちに共感しつつ、裁判という法的手続きがもつ限界も知るがゆえに、また、原告・支援者の皆さんの思惑も一色ではない中で、ずいぶん葛藤がおありだったのではないか、と想像したり、原告の方が苦しんで衰弱して亡くなってゆかれることに直面されて、どれほどお辛かっただろうかと、こちらまで胸が締め付けられる想いでした。

 

「被害者の命はどこまでも軽い」

カメラがずっと追い続けた柚岡一禎さんは、この裁判支援を牽引されてきた人で、地域の名士の家に生まれ、ご自身も祖父の代から引き継いだ石綿工場を経営していたそうです。この柚岡さんの支援にかける思いは強烈で圧倒されます。時に弁護団には内緒で、上京中の新幹線の中で原告らに内閣総理大臣への「建白書」を出しに行くことを提案したり、弁護団の制止を振り切って厚生労働省に単身直談判に乗り込みます。厚労省の役人と対峙したときの彼の言動は、言葉を発することもできないほど衰弱した原告や裁判途中に亡くなった原告の言葉を代弁するかのように真に迫るものがありました。

その柚岡さんは、映画の終わり近くに出てくるインタビューで、最高裁で勝利しても、「達成感はあまりない」と答えています。「?」と次の言葉を待っていると、彼は、「被害者の命はどこまでも軽く、裁判闘争や補償交渉といった『司法村』の中に埋もれてきただけではないか」と続けました。この指摘は、「司法村」の村人の一人である私自身に対する鋭い矢となって刺さりました。

その柚岡さんも、2016年に入って胸に「石綿プラーク」があることが判明したと、テロップが出て、映画は終わります。彼は、「泉南地域の石綿被害と市民の会」を結成した裁判支援の中心人物でした。国や裁判所に対して強い怒りをぶつけるとき、とてもこわい顔をしていました。まっとうな怒りをストレートに出すことが、今の日本では風潮として自分も含めてなくなってきている。だからこそ、私は、「こわい顔してはる」と、びびってしまったのかもしれません。

今後、自主上映会が催されることになると聞きました。自主上映会の情報は公式ホームページやfacebookで得られることでしょう。是非ご覧になってみてください。

公式ホームページ(http://docudocu.jp/ishiwata/index.php

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