「マタハラ」「パタハラ」のない未来をつくるために  【弁護士 有村とく子】

2019.08.30

これまでに2度紹介して来ました「マタハラ進化系」事件のその後について、ご報告します。

 

関西の大手私鉄で働いていたAさんは、第二子妊娠中から業務量を減らしてほしいと願い出ていましたが受け入れられず、上司から退職勧奨を受けていました。その第二子を出産後、育休から復帰して時短勤務をしていたところ、子どもが満3歳の誕生日を迎えた途端、朝8時から夜9時までの時間帯での不規則勤務(駅改札業務)を命じられました。

これでは保育所の送迎ができない日が出てくるため、勤務時間帯の変更を申し入れましたが、男性管理職からパワハラ発言を受け、勤務シフトの変更に応じてもらえませんでした。

 

私たちは、代理人として2014年11月下旬から会社と交渉を始め、大阪労働局の雇用均等室にも紛争解決援助を求めて相談に行きました。

しかし、会社は、勤務時間帯の改善に応じず、労働局の雇用均等室も会社の代弁者のような応対に終始しました。

 

そこでAさんは、15年2月17日、大阪地方裁判所へ配転無効の仮処分の申し立てをしました。

同年夏頃から裁判所の勧めもあって和解協議が始まり、16年2月に会社との間で和解が成立しました。

和解の骨子は、会社は、16年4月1日より、育児・介護により早朝及び夜間における勤務が困難となる労働者を対象とする新たな勤務シフトを制度として導入するよう努め、これが実現した場合には、Aさんを、同日から、子どもが小学校就学の始期に達するまでの間、午後6時から午前8時までの時間帯における勤務を要しない勤務シフトに配置する、会社が上記制度を同年4月1日までに導入できない場合であっても、Aさんに対しては、保育所が休みの日曜日には勤務が入らないようにするなど、保育所の送り迎えが可能となる勤務シフトに配置する、というものでした。

大企業相手にひとりで立ち上がったAさんの勇気と粘り強さの勝利で裁判は終わりました。

 

成功体験をもとに新しい職場でいきいきと働く

 

ところが、会社は、16年4月から職場復帰したAさんに、単発の簡易な仕事や単純作業、手待ち時間の多い仕事しか与えない、いわゆる閑職に追いやる嫌がらせを始めました。

子どもを産み、育児と仕事の両立がなんとか実現できたものの、いわゆる出世コースからは完全に外され、昇格や昇進の望めない仕事に限定・固定された状況にある女性のことをジェンダー研究の用語で「マミートラック(母親向け指定席コース)」と呼んでいます。陸上のトラック競技のように、単調な仕事を延々と繰り返す、という意味での「トラック」。

そこに入ると、責任も負担も軽い仕事を割り当てられ、抜け出すことができなくなります。

 

仕事に意欲的なAさんは、根気強く上司に改善を求めました。

しかし、直属の上司は、あろうことか、「ますますモンスター化していくAに対しては、何らかの対抗措置を取るべき時が来ている」などと上役に報告していたのです。

後にこの上司は、「一部表現が良くなかったところがある」と言ってAさんに口頭で謝り、「わだかまりを解くために話し合いをしよう」と言ってきたそうですが、Aさんを職場から孤立させる環境が改善されることはありませんでした。

 

このような会社に愛想が尽きたAさんは、今年(2019年)2月をもって退職しました。

苦労して裁判で勝ち取った道を歩き始めたAさんに対し、職場の男性達はあまりにも冷淡でした。

 

Aさんは、今、新たな職場で元気に働いています。

今の職場には、前の会社のようにハラスメントをする人はおらず、ストレスフリーで仕事ができているそうです。

退職を余儀なくされたのは残念でしたが、旧態依然のマタハラ体質の職場を見限り、離れたことによって、Aさんは、いきいきと働ける新しい世界に飛び込めたと言えるかもしれません。

それを可能にしたのは、Aさん自身が、マタハラ体質の職場で、労働者に認められた当然の権利を主張し、結果的に会社に新たな制度を作らせた、その貴重な足跡を残した成功体験があるからだと思います。

ちなみに、この会社では、Aさん退職後の今年4月から、育休復帰後の短時間勤務が子どもの小学校入学まで延長されました。Aさんの勇気ある行動は、決して無駄にはならなかったのです。

 

アシックスで男性が提訴

 

話は変わりますが、アシックス(本社・神戸市)の男性社員(38歳)が、パタニティハラスメント(パタハラ)やパワハラを受けたとして、同社に対し、慰謝料の支払いや懲戒処分の無効の確認などを求めて東京地方裁判所に裁判を起こしたことが今年6月下旬に報道されました。

 

この男性は、2011年にアシックスの東京支社に入社し、前職でアスリートへのプロモーション業務などに従事していたことから、当初はそのような業務に就いていましたが、上司の飲酒運転や先輩社員の暴力について会社側に通報したことなどをきっかけに嫌がらせが始まり、本来の業務から外されたり、専門外の業務ができないことを理由に懲戒処分を受けました。

 

15年2月に第一子が誕生した後、約1年間の育児休業を取得しましたが、復帰し出社した初日に茨城県にある倉庫での勤務に半月後に出向するよう命じられ、それまで従事していた業務とは性質の異なる荷降ろしや検品などの業務に従事することとなりました。

その後、弁護士を通じて会社と交渉し、16年7月に再び人事部に配置転換となりましたが、人事部では専門外の仕事を命じられ、これに従わなかったことを理由に、会社側は男性を業務命令違反としてけん責・減給処分にしました。

 

この男性は、18年3月に第二子が誕生した後、2度目の育児休業を約1年間取得しましたが、この時も復帰後、同じように専門外の仕事を命じられたそうです。

男性側は「能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えない(過小な要求)」や「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)」というパワハラや、育児休業の取得を理由にしたパタハラなどがあったと主張しています。

 

女性も男性も、育児と仕事を両立できる社会になるよう、小さなつぶやきを声に出して言い続けることが大切です。そういう人がこれからも増えてほしいと切に願いますし、立ち上がった人たちへの法的支援を今後も続けていきたいと思います。

 

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