本の紹介 『「DVと虐待」 対策・改善提言2020』  【弁護士 乘井弥生】

2020.08.19

心愛さん虐待死事件を契機に

 

当事務所のニュースレターにも過去に寄稿をしていただいたことのある伊田広行さんが、今年3月、『「DVと虐待」 対策・改善提言2020』という書籍を出された(電子書籍版&ペーパーバック版POD)。

 

伊田さんは、DV加害者プログラム・NOVO(ノボ)を運営し、長年、DV被害者支援に基づくDV加害者の更生プログラムを実践されてきた方であり、2019年1月、千葉県野田市で起こった実父による10歳の女児虐待死事件(心愛(みあ)さん虐待死事件)を契機に、「DVと虐待」問題への提言をまとめたのが本書である。

 

野田市女児虐待死事件については、父親が傷害致死罪と傷害罪で、母親が傷害ほう助罪でそれぞれ起訴され、すでに一審判決が出されている(母親については一審判決で確定、父親については一審判決を不服として東京高裁に控訴され係属中)。母親は父親からDVを継続的に受けていた被害者であり、実家のある沖縄県糸満市に戻り、女児が3歳のときにいったんは離婚した。しかし、加害者が執拗に復縁を迫り、女児との面会交流を求め、抗うことが出来ず復縁。第2子を妊娠後、再婚したという。

 

父親は典型的なDV加害者であり、女児の祖母は糸満市役所にDV相談をしたが、結局、母子を守る効果的な支援はできていない。その後、加害者は女児と妹を自分の実家のある千葉県野田市に連れていき、母子に対するDVと虐待が続いた。

 

二度と犠牲者を出さないための提言

 

本件が虐待対応に関わった人たちにとって失敗事例だとされるのは、虐待死という取り返しのつかない結果に至るまで虐待を食い止められなかったという事実とともに、女児が明確に私たち大人に、「殴られることなく生きたい」という助けを求めたにも関わらず死なせてしまったからであろう。女児は小学校で行われたアンケートに「お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり、起きているときにけられたり、たたかれたりしています。先生、どうにかできませんか。」とSOSを発していた。女児は児相に一時保護されるが、2カ月弱で、児相は一時保護解除(父方祖父母宅へのひきとり)を決め、最終的に、虐待を否定し続けていた加害者の手に渡してしまったのである。

 

伊田さんは次のように憤りを文字にしている。「柏児相は保護を解除する際にDVがなくなったか確認しなかった。ほとんど何も本当の実態を調べなかった。父親の虐待の思考を変えることもできなかった。変えることの教育的かかわりはなされなかった。攻撃的な父親の言動は有り余るほど維持され続けた。にもかかわらず、リスクアセスメント等で『危険性が低くなって返してもいい状態』になったと判断した。」

 

ちなみに、加害者は自身の刑事公判の場においてさえ、虐待を否認し、「しつけが行き過ぎた」程度の認識しか示していなかったという。女児を虐待親の元に戻していいかどうか判断するときに、加害者に何らの行動変容もなく女児にとって危険な状態が続いていたことを見抜くことがそれほど難しかったとは思えない。また、連れ戻すために加害者が被害児に手紙を書かせたり、行政の窓口で威圧的言動を繰り返すなどしているが、この事実は女児の置かれた状況の危険性を裏付けるものであったはずである。

 

にもかかわらず、本件虐待事案に関わっていたものは、SOSを発している子どもを見捨て加害者の手に渡してしまったのである。関わった専門職、行政関係者、そして、貧弱な虐待対応の制度しか置いていない社会の責任は重い。

 

本書は、「DVと虐待が絡んでいるケース」に関する失敗事例から学び、二度と同じような犠牲者を生み出さないために、虐待対応へのDV視点の導入、行政の消極性を克服するための方途、加害者プログラム的なものを児童虐待対応にも導入すべきといった数々の提言をおこなっている。多くの方に、ぜひ読んでいただきたい本である。

 

 

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