日本学術会議の任命拒否問題に抗して  【弁護士 雪田樹理】

2021.01.28

昨年10月1日、日本学術会議が推薦した会員候補者6名の内閣総理大臣による任命拒否という極めて由々しき問題が発生した。第一報の記事をみて、いよいよ学問の世界に政府が介入し、政府に批判的な意見を表明できなくなる、日本社会が大きく変容させられる時勢がここまで迫ってきたのか、と民主主義に対する強い危機を感じた。

 

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日本学術会議の活動をそれほど知っていたわけではないが、この問題が発生する直前の9月29日、日本学術会議(法学委員会ジェンダー法分科会・社会学委員会ジェンダー政策分科会、社会学委員会ジェンダー研究分科会)が、「『同意の有無』を中核に置く刑法改正に向けて―性暴力に対する国際人権基準の反映―」と題する提言を発表したことを知ったばかりであった。60名ほどの多彩な会員らが議論を尽くした提言は、私が普段から取り組んでいる性犯罪に関する刑法の再改正を求めており、その内容は深い洞察と論理に基づく説得力のあるものであった。ほかにも日本学術会議は、男女共同参画の実現やセクシュアルマイノリティの人権など、ジェンダーの分野においても最近多数の研究成果を発表している。任命拒否の問題が国会で議論されていても、身近な問題として感じられない人が多いかもしれないが、私達一人ひとりの生活や権利に深くかかわる事柄について、実に多様な研究成果を国に勧告する活動を活発に行っている。

 

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当然、その活動はジェンダー分野に限定されるものではない。そもそも日本学術会議は、「科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、 わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立され」た機関である(日本学術会議法前文)。日本の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業および国民生活に科学を反映浸透させることを目的としている。そして、会員は「優れた研究又は業績がある科学者」のうちから会員の候補者を選考して内閣総理大臣に推薦し、内閣総理大臣が任命するとされている。

 

ご承知のとおり、菅首相は6名の任命拒否の理由について、「総合的、俯瞰的な活動を確保するため」と繰り返すのみで、法律が求めている「優れた研究又は業績がある科学者」という要件に照らして、各候補者の任命を拒否する理由を一切示していない。他方、任命拒否された6名に共通しているのは、政府が提出した法案に反対の意見を表明したことがあるという事実である。

 

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このように異なる意見や批判的な意見を排除し、多様性や寛容さを失った国においては、学問や社会の発展はとうてい望めない。科学の向上や発展は、それまでの常識を疑い、批判的な精神で新しいことに挑戦することから生み出されるものだからである。そして、時の権力におもねる研究者らが跋扈する社会では、学問の自由のみならず、私達一人ひとりの自由な精神活動も保障されないことになる。

 

このような学問の自由や独立に対する不当な攻撃は、以前から、ジェンダー研究に対する攻撃として始まっていた。衆院議員杉田水脈による研究者4名が科研費で行った「ジェンダー平等社会の実現に資する研究と運動の架橋とネットワーキング」に対する攻撃である。杉田議員は、憲法遵守義務のある国会議員であるにもかかわらず、「慰安婦」問題を扱ったこの研究を「ねつ造」とし、またフェミニズムやジェンダー研究を貶め、事実無根の科研費「不正」使用の発言をするなど、インターネットやツイッター、雑誌等のメディアを通じて誹謗中傷を繰り返した。攻撃を受けた4名の研究者らは、2019年2月、「私たちに対するのみならず、学問の自由・学術研究の発展に対する攻撃であり、私たちへの誹謗中傷を放置することは将来にわたる学問の自由への介入の理由づけに利用されることが十分予想され、それを阻止するために今般の提訴に至りました」として、杉田議員に対する名誉毀損の裁判を京都地裁に提訴している(http://kaken.fem.jp/)。

 

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学問の自由に対する攻撃は、私達一人ひとりの人権や民主主義に対する攻撃に外ならず、これを安易に放置してはいけない、とあらためて実感している。

 

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