精神的苦痛の消滅時効は何年?  【弁護士 角崎恭子】

2021.01.28

除斥期間から時効への法改正

 

2017年の民法改正により、消滅時効に関する条文等が改正され、この規定は2020年4月1日に施行されました。

改正された民法では、不法行為に基づく損害賠償請求権については、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年、または、不法行為の時から20年の経過により、消滅時効が完成すると定められました(民法724条)。  ただし、特に、生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権については、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年、または、不法行為の時から20年の経過により、消滅時効が完成すると定められました(民法724条の2)。

国会(法務委員会)では、時効に差が設けられた立法趣旨として、生命や身体に関する利益は、一般に、財産的な利益等の他の利益と比べ、保護すべき度合いが強いため、他の利益の侵害による損害賠償請求権よりも権利行使の機会を確保する必要性が高い、という議論がなされています。

3年間というのは、長いようで短く、不法行為の被害者が、損害賠償請求を決意し、準備をするまでに十分とは言えませんので、今回の改正で、生命・身体の侵害に限られているとは言え、消滅時効が5年に変更されたことは、被害者の救済には前進と言えます。

この改正には経過措置があり、不法行為について、3年の消滅時効、あるいは20年の除斥期間が、2020年3月31日以前に経過していたケースには改正前の民法が適用されますが、2020年4月1日以降に経過するケースについては、新法が適用されます。

そのため、生命・身体を害する不法行為については、2020年3月31日以前に3年間の消滅時効が完成していなければ、消滅時効は5年となります。

 

生命・身体の侵害についての不法行為

 

ここで注意が必要なのは、ここで言う生命・身体の侵害には、精神的苦痛(精神的損害)は含まれないと解釈されることです。そうなると、例えば、怪我をするには至らなかった身体的暴力や精神的暴力、性的暴力等によって、精神的苦痛を被ったという場合には、時効は3年のままです。

ただし、身体的暴力や精神的暴力、性的暴力等によって、PTSD(心的外傷後ストレス障害)等を発症した場合には、「生命・身体の侵害」に該当すると判断される可能性があります。立法時に、国会(法務委員会)でも、単に精神的な苦痛を味わったという状態を超え、いわゆるPTSDを発症する等の精神的機能の障害が認められるケースについては、これを身体的機能の障害が認められるケースと区別すべき理由はないという議論がなされています。ただ、どの程度の精神的ダメージが、「精神的機能の障害」と判断されるかは未知数です。

上記立法趣旨から見れば、強い精神的苦痛については、同じように、保護すべき度合いが強く、権利行使の機会を確保する必要性が高いと言えるはずです。また、被害者が、権利行使までに長期間を要することは想像に難くありません。

精神的苦痛は、怖い、痛い、つらい、悲しい、といった被害時の感情だけをいうのでなく、形を変えて長く被害者を苦しめることや、その後の生活に影響を及ぼすこともあります。ですので、精神的苦痛が、財産的な利益等と並べて論じられ、生命・身体の損害(病気や怪我)よりも軽く扱われることには、私は納得がいきません。

性的暴力については、特に幼児期の被害について、20年の除斥期間(消滅時効)が被害者救済を阻むことも問題視されてきましたが、根本的には、人の人格の根幹にダメージを与えるような暴力と、その影響が軽んじられていることが問題だと思います。

 

 

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