『バックラッシュの生贄 フェミニスト館長解雇事件』三井マリ子・浅倉むつ子編(旬報社)を読んで 弁護士 高坂 明奈

2012.08.30

【背後には豊中市と、ある議員との密約が】

本書は、「すてっぷ」(豊中市男女共同参画推進センター)の非常勤館長であった三井マリ子さんが、自身が館長職から排除された背景にあるものを明らかにされた書籍である。豊中市「すてっぷ」館長不当雇い止め事件について(当事務所の宮地弁護士が三井さんの代理人として活動し、事務所ニュース〔13号・18号〕でも記事にしている)、三井さんが裁判で勝訴されたことなど、ニュースや新聞報道などでも見たが、その背景にあった事実がこれほどおぞましいものとは本書を読むまでは知らなかった。

私は、怒りで心が震えたとき、喉の奥がきゅっと閉まり、体温が上昇する。本書を読んでいるとき、私は喉の奥が痛くなるほど閉まり、座っていた椅子は熱くなっていた、この本の読者は、二つの怒りを体験する。一つは、バックラッシュ勢力のやり口の卑劣さに対する怒り、もう一つは、そのような勢力に対し本来立ち向かうべきはずの行政(豊中市)が屈服したことへの怒りである、男女共同参画に関するバックラッシュ勢力とは、「狙いを定めた地方自治体において、一般市民を装いながら歪曲したデマを流しつつ、特定の個人を名指しで攻撃する行為をしつこく繰り返し、ときには地方自治体の一部議員と連携しつつ行政や男女共同参画拠点施設の職員等に対する執拗で陰湿な攻撃・批判を行うもの」(本書182頁参照)である。

【生贄から奇跡の生還へ】

歪曲したデマというのは、男女共同参画は、「鯉のぼりやおひなさまを否定する」「性教育は子どもにセックスを勧めている」「男女の区別を否定することだからトイレ・風呂が共用になる」などである。今回、三井さんに仕掛けられた攻撃の中にも、「三井さんが豊中の小学校のトイレの色を同じにしたため男子がどちらに入ってよいか分からずおしっこをもらした」という全く事実無根の噂を流されるということがあった。また、一般市民を装った男性が「ジェンダーフリーの危険性を学ぶ」という勉強会をするので部屋を貸して欲しいとすてっぷにやって来るということがあった。会館の使用目的に反していると断ると、男は市議を使ってなぜ使えないのだと迫った。結局、市は、貸し出しを認めてしまう。三井さんは、この弱腰がバックラッシユ勢力を勢いづかせたと言う。

当初、バックラッシュ勢力に注意するよう関係各所にFAXを送るなどしていた三井さんの直属の部下(市役所からの出向)だが、豊中市がバックラッシュ勢力に屈服すると三井さんの首切りプロジェクトに回る。三井さんは非常勤職員であり簡単に首を切れると踏んだ豊中市は、当該部下に首切りの案を練らせ、後任の館長を探し、三井さんを雇い止めにしている。

なぜ、豊中市は、バックラッシュ勢力に屈服したのだろうか。その背景には、豊中市が、男女共同参画推進条例を議会で通すために条例に難癖をつけていた議員と交わした密約の存在があった。男女共同参画推進の象徴的存在である三井さんを排除するという密約である。

このような仕打ちに対して、三井さんは屈服しなかった。戦うという決断をされるまでにどのような思いをされただろうかと想像するとまた、体温が上がった。そして最後には、一審から逆転勝訴の高裁判決を受け、生贄から奇跡の生還を果たされたことの感動で体温が上がった。最近は女性も男性も冷え性の人が多いので、身体の中から熱くなりたい人におすすめの一冊だ。

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