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2021年07月07日
弁護士コラム

vol.19 書評「さよなら! 一強政治 徹底ルポ 小選挙区制の日本と比例代表制のノルウェー」

 

クレイジーな日本の選挙

著者の三井マリ子さんは、豊中市の男女共同参画センター「すてっぷ」の元館長だった。その三井さんが、在任中、同センターから不当な雇い止めに遭い、その違法性を裁判で認めさせた事件で、私は弁護団の一員を務めさせていただいた。 三井さんは、都立高校教師から都議会議員になり2期務めた経歴の持ち主であるとともに、長らく北欧社会を調査・研究してきて、北欧に友人・知人も多い。この本には、そんな三井さんだからこそ執筆できたと思わせる箇所が随所にある。 第一部の「小選挙区制の日本」の第一章のタイトルは「喜劇のような悲劇」。三井さんは、2014年夏、映画「選挙」(監督・想田和弘)のDVD英語字幕版を持って、ノルウェーに飛ぶ。ノルウェーの友人に、この映画を見てもらうためだ。この映画は、ひょんなことから川崎市議会議員補欠選挙の自民党公認の候補者となった山内和彦の選挙活動を、コメントなしで観察した映画である。三バン(地盤・看板・鞄(組織・知名度・お金))も無い山内は、ドブ板選挙を展開し、地域の運動会や祭りにも行き、「電柱にもお辞儀作戦」にでて、妻も含めて必死の選挙活動を行って当選する。 この映画を見た三井さんのノルウェーの友人の第一声は「これ、本当に選挙なの?」。そして「クレイジーだね。」「ノルウェーの選挙とはあまりに違いすぎる。日本の選挙は哀れすぎる。」と至極まっとうな感想の後に「映画にはなかったようだけれど、候補者同士の政策討論会はいつやるの」との鋭い質問。三井さんが「日本では、選挙期間中、候補者が一堂に集まっての討論会はやれない。法律で禁止されているの」と説明しても、比例代表制をとる国・ノルウェーの友人は、「冗談だよね」と信じてくれない。

選挙制度と民意と選挙活動

小選挙区制は、1つの選挙区ごとに1名のみを選出する選挙制度である。「死票」が多くなり、民意が正確に反映されないという問題点を抱えている。選ばれるのは、候補者個人であり、投票用紙には、候補者の名前を書いてもらわないといけないから、候補者は、自分の名前を売ることに、選挙活動のほぼすべてのエネルギーを費やす。 他方、比例代表制は、各政党が獲得した投票数に比例して候補者に議席を配分する選挙制度であり、民意が正確に反映されるのが長所とされている。選ばれるのは、政党であり個人ではないから、候補者が、選挙活動で、自分の名前を売り込むことにエネルギーを費やす必要はない。 そして日本の衆議院の選挙制度は、小選挙区比例代表並立制(以下並立制)である。並立制では、比例制は、比例代表部分の議席のみに限定されている(ちなみに2018年以降、衆議院議員の場合、小選挙区制の定数は289名、比例代表の定数は176名)。しかも日本の並立制には、比例代表選挙の当落にも、小選挙区の選挙結果を影響させる小細工が存在する。 こんな日本の選挙制度のもとで、2017年の衆議院選挙では、自民党の得票率は、小選挙区 48%、比例区 33.72%にも関わらず、議席占有率 は74%にも及んだのである。

国会の女性議員の割合は9.9%

世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」によれば、「経済」「政治」「教育」「健康」の4つの分野のデータで、日本は156ヶ国中120位(前回は153ヶ国中121位)、これを「政治」のデータだけでみると、順位は156ヶ国中147位(前回は144位)と、さらに大きく下がるのである。そして「列国議会同盟(IPU、本部スイス・ジュネーブ)」が本年3月5日に発表した結果によると、国会の女性議員の割合は、9.9%にすぎず(166位)、G7諸国では最低だった。 わが国のジェンダー・キャップ指数の低さが問題になると、よく女性議員を増やすことの必要性が指摘される、しかし海外から「クレイジー」と評されるような選挙運動を覚悟しなければならないとなれば、議員になる覚悟のできる女性が、なかなか増えてこないのも当然のことだろう。女性が無理なく選挙に立候補できるような選挙制度を実現しない限り、日本のジェンダー・ギャップ指数の順位は、さらに下降していくのではないだろうか。ちなみにジェンダー・ギャップ指数の上位10ヶ国のほとんどが、比例代表制である。 さらにこの本の中には、比例代表選挙のもとでこそ実現しえる「代理議員制度」のこととか、地方議会の議員はボランティアであり、本業を継続しながらの兼業が原則であるとか、ノルウェーの選挙制度をつぶさに見てきた三井さんだからこそ伝えることのできる情報がいっぱい詰まっている。また自ら候補者活動をした三井さんだからこそ知り得た政治資金の闇(政党交付金の使われ方)についてもリアルに描かれている。是非とも、ご一読をお勧めする次第です。

 

弁護士 宮地光子

 

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