① 民事執行法の一部改正
離婚調停や離婚裁判でせっかく養育費の額を取決めても支払いが数カ月で途絶えてしまい、子どもを抱えた母親が経済的窮地に陥るという状況を日常的に目にします。
元夫が定職に就き転職などしていない人であれば、元夫の勤務先に対して給与債権を差押えるなどして不払いの養育費を回収する手続きが取れます。
けれども、離婚後、元夫が転職し新しい勤務先を秘密にすると、たちまち養育費の回収が難しくなります。
今年5月、民事執行法の一部を改正する法律が成立しました。
債務者の財産状況の調査がやり易くなる方向での法改正であり、養育費の不払いに悩むシングルマザーにとっては朗報ですので、その概要を紹介したいと思います。
② 相手方の給与債権(勤務先)に関する情報を取得できる
今回の改正で「第三者からの情報取得手続」という制度が新設され、裁判所から市町村や日本年金機構等に照会をして、債務者の勤務先についての情報を取得できるようになります。
なぜ市町村に照会をすると会社名がわかるかというと、会社は給与から住民税を特別徴収し、これを住民票のある市町村に納付しているので、市町村は会社名を把握しているからです。
同じように、日本年金機構は厚生年金保険料を納付している会社名を知っています。
裁判所からの照会で支払義務者である元夫の現在の勤務先が判明すると、そこに給与差押えをおこなうという形で養育費を支払わせることができるのです。
③ 金融機関から預貯金債権や上場株式等に関する情報を取得できる
給与債権だけではなく、元夫が銀行口座を有している場合は、銀行に対して預金債権を差押えすることも可能です。
これまでは「A銀行に口座を有していることはわかっているけどA銀行のどの支店かまではわからない」というケースで手続きに困難をきたすことがありました。
今回の改正法による新制度では、裁判所からA銀行の本店に情報の提供を命じることで、A銀行のどの支店に債務者の口座があるのかを回答してもらえるようになりました。
さらには、支払義務者である元夫が株式投資をしているような場合には、証券保管振替機構に照会をすることで、上場株式や社債をどの証券会社で保有しているか確認できるようになります。
また、これまでは公正証書で養育費を決めた場合は、裁判所による財産開示手続は利用できませんでしたが、今回の改正では、調停調書や確定判決と同様に公正証書であっても財産開示手続の申立てができるようになります。
④ 「逃げ得」を許さない社会の空気をつくっていくことが大事
過去、私が関わった離婚事件でも、債務者である父親が養育費を支払いたくないがために、会社を辞めた形をとり、預金を動かして強制執行不能の状態を意図的に作り、強制執行が頓挫するケースがありました。
そのため、現行法の財産開示手続を申立てましたが、相手方は裁判所に出頭せず、資産も収入も何もないという虚偽の陳述書を提出してきました。
このような場合でも現行制度の罰則は30万円以下の過料という極めて弱いものでしかなく、いわゆる「逃げ得」を許す法制度で、実効性がほとんどありませんでした。
今回の法改正では、不出頭等には刑事罰(6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金)による制裁を科して手続の実効性を向上させようとしています。
今回の改正でもまだまだ「抜け道」がたくさんあり、養育費に関する取決めのすべてについて履行確保ができる内容ではありません。けれども、今回のような法改正がなされ、これをどんどん使っていき、「逃げ得」は許されないという社会の空気をつくっていくことは、子ども達のために健康で文化的な生活環境を社会全体でつくっていくという意味で、とても大事だと思います。
(なお、今回の法改正は、公布の日である令和元年5月17日から1年以内の施行となっています。)