事件の概要
6⽉6⽇、愛媛県のTBS系列の地⽅局を被告として損害賠償を求める裁判を提起しました。原告はバラエティー番組の司会進⾏役をしていたフリーアナウンサーです。
2016年4⽉から2022年3⽉まで、毎週深夜の時間帯に放送された番組で、男性の著名タレントと地元の僧侶がレギュラー出演し、お酒を飲みながら会話をするという内容の企画でした。原告が仕事の依頼を受けたときの番組のコンセプトには、性的な内容を感じさせる⾔葉はありませんでした。
しかし、台本も打ち合わせもないままに収録が始まり、⼆⼈のレギュラー出演者から性的な発⾔があり、直接的なわいせつ⾏為も⾏われ、その場⾯が収録され、放映されるという被害を受けた事件です。
原告と業務委託契約を締結したテレビ局は、原告に対して契約に付随する安全配慮義務を負っています。安全な就業環境で仕事をすることができるように、セクシュアル・ハラスメントを防⽌し、実際に発⽣した場合には、速やかに是正し、適切に対応する義務を負っています。しかし、その義務が果たされませんでした。
2つのセクハラの違法性
裁判では、2つのセクハラについての違法性を指摘しています。
⼀つは、番組収録中のセクハラ⾏為です。番組の収録中、男性出演者らからセクハラが繰り返し⾏われても、テレビ局のスタッフがそれを中⽌することはありませんでした。10名ほどの収録現場のスタッフは1名を除いて全員が男性で、彼らはセクハラを中⽌するどころか、⼀緒になって原告の⼥性を嘲笑して積極的に「場を盛り上げる」役割を果たしていました。原告がワンピースの背中のファスナーを下ろされたときには、カメラマンがその場⾯に近づいて撮影するなど、収録現場の男性⼀同で原告を性的に辱めていたのです。訴状で取り上げたセクハラの場⾯は37件にも及んでいます。
⼆つ⽬は、テレビ番組として放映することによるセクハラです。テレビ局は収録した内容をそのまま放映し、しかも原告のことを「床上⼿」「S」などと揶揄したテロップやボイスフォロー・性的なイメージのイラストを付けて編集して放映し、公共の電波を使って、原告がまるで性的に奔放な⼥性であるかのように印象づけ、原告の名誉や⼈格権を侵害しました。
原告は、収録中にやんわりとした表現で男性出演者らにやめてほしいと⾔ったり、また番組のプロデューサーなどに改善を申し⼊れるなどしましたが、取り上げられることはありませんでした。
原告は「お酒で酔っぱらった男性出演者、男性ばかりのスタッフ、頼れる⼈も助けてくれる⼈もなく、狭く閉鎖された収録場所で男性たちに囲まれ嘲笑され、⾒せ物のように性的な辱めを受ける恐怖は、今でも決して忘れることができません」とコメントしています。次第にストレスから⼼⾝に不調が⽣じ、最終的に限界に達して降板を申し⼊れ、番組が終了しました。重いPTSDに罹患しており、現在も闘病中です。
本件の背景
本件の背景には、フリーランスで働く⼈たちの脆弱な⽴場(契約書は交わされず、条件を⼝頭で告げられるのみでした)があります。また、テレビ業界では、⼥性アナウンサーのことを「⼥⼦アナ」と呼称して性役割による差別的扱いをしてきたこと。とくに2010 年以降は、「有名タレント」を頂点においた番組作りが横⾏し、⼥性アナウンサーはいわば「商品」として、ひたすら笑みを絶やさず、でしゃばらず、出演者らに気を使いながらも、専⾨的な能⼒を発揮して進⾏の役割を果たす存在とされてきたこと。本件では、地⽅局では珍しく、東京から「著名タレント」を迎え⼊れることができたため、その機嫌を損ねないようにすることが最優先にされていたことなど、⼆重三重の差別的な権⼒構造があります。
原告は、今後、フリーアナウンサーとして復帰することができないリスクがありながらも、テレビ業界を相⼿に声を挙げました。その勇気と意思に応えられるように精⼀杯、裁判を闘っていきたいと思います。達に良い作品を届けようと命がけで努⼒し続けたというところに深い