選択的夫婦別姓制度に関する政府の世論調査の質問項目が大幅に変更された背景に、自民党の一部議員の圧力があった疑いが報道されました。この世論調査は、昨年12月に実施されたもので、今年3月に公表されました。
平成29年までの世論調査では、夫婦別姓制度に関する質問について、
①婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない
②夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない
③夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない
という3つの選択肢でした。そして、平成29年の世論調査では、①29.3%、②42.5%、③24.4%となっており、選択的夫婦別姓に賛成する割合(②)はそれまでで最も多い42.5%でした。
しかし、今回の世論調査では、夫婦別姓制度に関して、
①現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい
②現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい
③選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい
という3つの選択肢に変更し、その結果、①27.0%、②42.2%、③28.9%という結果になり、選択的夫婦別姓制度に賛成する割合(③)が28.9になり、大幅に減少するという結果になりました。旧姓の通称使用で良いと回答する人が増えた理由としては、調査の説明の中で、旧姓の通称使用についての法制度について、「婚姻で名字・姓を変えた人は、旧姓を通称として、幅広く使うことができるようにする法制度」と説明があったことが指摘されています。この点、政府内で通称使用の法制度に関する議論は進んでいないのに、「幅広く」という表現を用いることは、「世論をミスリードする」と調査の前から指摘されていたようですが、法務省が質問の変更を拒否していたようです。
これまで何度も行われてきた世論調査ですが、質問項目を変更してまで、選択的夫婦別姓制度に賛成する声が少ないかのように見せかけるやり方には憤りを感じます。2020年のマスコミ調査でも、賛成は 70~80%で(朝日新聞社 69%、西日本新聞社約 8 割、TOKYOFM82.9%等)、今回の調査が民意を反映しているとは思えません。
約20年前、選択的夫婦別姓制度について、法学部生だった私はゼミでディベートをした思い出があります。その時、私は反対側で討論をするよう指示をされたので、通称使用を拡大することで実質的な不利益は解消される、そして、選択的夫婦別姓制度を導入しても制度を利用する人は少ないと主張し、賛成側よりも多くの賛同を得ることができたことを覚えています。
通称使用を拡大するという案は、折衷案のようで積極的に夫婦別姓を希望しない層からは支持されやすいと思います。しかし、それでは解消されない不利益が多々あります。例えば、旧姓を併記したパスポートでも、ビザや航空券は戸籍名で発行されるので、海外の仕事や生活に支障があることが報告されています。夫婦同姓を法律で規定するのは世界で日本だけで、海外で理解されにくいためです。また、旧姓と戸籍姓の二つの名前が生じることでマネーロンダリングや詐欺の危険も指摘されています。そもそも、通称使用を拡大しても、戸籍上の氏が変わることで人格権が侵害されているという状態や、改姓の不利益を女性が被っているという平等権が侵害されている状態は解消されません。
現在、家族の形態や生活のスタイルが多様化しており、色々な家族の形があります。離婚された方で、お母さんは旧姓に戻り、お子さんは、お子さんの意思でそのままの氏(お父さんの氏)としましたとおっしゃる方もいます。一緒に生活する家族の中で、氏が異なる人がいたとしても家族の絆が弱くなるとは思えませんし、不都合が生じるとも思えません。氏名に対する個人の思いを尊重し、多様性を認める制度として選択的夫婦別姓制度が必要であると思います。
弁護士 髙坂 明奈