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2019年01月24日
平和・人権
宮地 光子

憲法9条と「平和への権利」~「自衛隊加憲」の意味するもの~  【弁護士 宮地光子】

9条に自衛隊を明文で書き込む自民党案

 

私が中学生だった頃、社会の公民分野の授業では、憲法の前文を暗記させられたものだ。

「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。・・・・・・・われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」という格調の高い憲法の前文を声に出して読んでいると、何か誇らしげな気持ちになったものだ。そして憲法9条1項で、戦争の放棄が定められ、2項で、戦力を保持せず、交戦権は認められないとされているのを知って、深く安堵したことを思い出す。

しかし、この憲法の定めと現実との乖離を知るのに、時間はかからなかった。政府は、憲法9条のもとでも、日本が外国から武力攻撃を受けた時の「個別的自衛権」は認められると解釈し、自衛隊は「専守防衛」を任務とするから憲法違反にあたらないとしてきた。

ところが政府は、2014年7月の閣議決定で、日本と密接な関係にある外国に対する武力攻撃が発生した場合にも、「自衛」に基づく措置をとることができるという憲法解釈を明らかにし、2015年9月には、「集団的自衛権」の行使をも容認する安保関連法制を強行採決した。そして今や日本の自衛隊は、世界の軍事力ランキング7位の規模になっている。

そのうえ、安倍首相は、2017年5月に、現行憲法9条をそのままにして、自衛隊を明文で書き込むという「加憲」の構想を明らかにし、この構想に基づいて、現行の憲法9条の後に、9条の2を加える自民党の「加憲」案が明らかにされている。すなわち憲法9条は、戦争の放棄・戦力の不保持・交戦権の否認を定めているが、憲法9条の2を新たに追加し、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げずとし、そのための実力組織として、自衛隊を保持することを明記するというのである。

私には、この自民党の「加憲」案は、憲法9条の戦争の放棄・戦力不保持の定めを、憲法違反の現実で骨抜きにしてしまうものとしか思えない。

 

「平和への権利」を確かにするために

 

それにしても、こんな「加憲」案が出てくるのは、「自衛の措置」とか「専守防衛」とかいう口実で、自衛隊に軍事力の増強を許してきたからだと思う。しかし、他方で「外国から攻められたらどうする?」という国民の不安を顧みず、日本国憲法は、どんな戦争をも放棄していると言っていいのかという素朴な疑問もわいてくる。

そんな疑問を解明する手掛かりを与えてくれるのが「明日の自由を守る若手弁護士の会」- (i)と元内閣官房副長官補・柳澤恭二氏の共著『憲法カフェで語ろう 9条・自衛隊・加憲』(かもがわ出版)である。

この本の中で、柳澤氏は、アメリカの抑止力に頼っていれば安心だとはとてもいえないことや、「専守防衛」という戦略の意味するところを、わかりやすく解説されている。そして最後に、橋本智子弁護士が、今、国際社会において「人間の安全保障」という考え方が広がっていることに触れ、軍事によらずに平和を構築することをめざす日本国憲法の理念は、この「人間の安全保障」という考え方にほかならないこと、そしてこの考え方をさらに進めて、2016年12月には、国連で「平和への権利」という宣言が採択されたことを紹介している。

今、地球上には核兵器が1万5000発も存在し、ひとたび核兵器が使用されれば、壊滅的な人道上の結末を迎えるという冷厳な現実がある。この現実の前には、日本国憲法9条の定める「戦争の放棄」と「戦力の不保持」こそが、「平和への権利」を確かにする最善の方策なのだと思う。

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(i)「明日の自由を守る若手弁護士の会」については、有村弁護士記載の「お勧めします!『イマドキ家族のリアルと未来―憲法9条の陰でねらわれる24条』」をご参照下さい。

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