■パリテ法について
上記日本版パリテ法のもととなった、フランスのパリテ法を紹介したい。
「パリテ」という言葉は、フランス語で「同等、同一」を意味する。パリテ法は、2000年に、政治参加についての男女平等の促進のために、フランスで制定された法律で、選挙の際、政党に対し、「比例代表制の候補者名簿への登載を、男女交互にする(拘束式名簿)」、「小選挙区の候補者を男女同数にする」といったことを義務付けている。
日本版パリテ法は、政党に対し、努力義務を定めるもので、罰則等は無いが、フランスのパリテ法では、候補者数の男女差が2%を越えた場合等には、男女の候補者数の格差の割合に応じて、国から政党への助成金が減額されるという罰則が規定されており、男女平等を強力に推進する法律となっている。制定以降、2度の改正を経て、罰金額も増額されているそうである。
フランスは、もともと、政治参加についての男女平等は、先進国の中では遅れていたと言われており、1997年に、国民議会(下院)において、女性議員の割合は、10.9%に過ぎなかった。現在の日本と比べても低い割合である。
それが、パリテ法の制定後の20年間で、国民議会(下院)の女性議員の割合は4倍近く(40%近く)にまで増加した。
日本においても、政治や意思決定の場における男女平等を、真に実現しようとするのであれば、こういった罰則を伴う法律の制定が望まれる。
■選挙制度について
ここで少し、選挙制度について考えてみたい。
衆議院選挙でも採用されている小選挙区制(当選者は1名)は、一般的に、死に票が多く、民意が反映されにくいと言われ、後述のとおり、他の有権者の投票行動に、自身の投票行動が左右される可能性もある。
今回の衆議院選挙の小選挙区制では、自民と立民が接戦を繰り広げた選挙区も多く、1票に泣いた候補者や、自身の票が死に票になったと嘆いた有権者も多かったのではないだろうか。
かつて採用されていた中選挙区制(当選者は複数名)では、同士討ちや共倒れを起こしやすく、死に票も非常に多くなる。このような単純な中選挙区制は、海外ではほとんど採用されていない。
一方で、比例代表制は、少数の党が乱立して政治が混乱したり、極端な排外主義を掲げる党が一定の議席を獲得したりする危険が指摘されてはいるが、死に票が少なく、民意を反映しやすい。また、激しい選挙戦を戦い抜き、1票を争って競り勝つ必要がないため、女性等、それまで政治への参加が難しかった層の立候補の増加が期待できる。
■もし、今回の選挙が全て比例代表制であったとしたら…
今回の衆議院選挙について、比例代表制の得票率を見ると、自民26.73%(59議席)、公明10.93%(20議席)、立民21.20%(44議席)、維新9.36%(15議席)、国民11.32%(17議席)、れいわ6.98%(9議席)、共産6.16%(7議席)、参政3.43%(3議席)であった。
比例代表制は、政党への支持を直接的に反映するが、仮に、465議席全てを比例代表制によって選出したとすると、自民124議席、公明51議席、立民99議席、維新44議席、国民53議席、れいわ33議席、共産29議席、参政16議席となる。
実際の結果と比較すると、自民と立民は、上記比例代表の得票率による計算よりもかなり大きく議席数を伸ばし、維新と国民は、比例代表の得票率による計算よりも議席数が下回った。同様に、公明党とれいわ、共産は、比例代表の得票率による計算の5割以下に落ち込み、参政党は2割を割り込んだ。
これは、小選挙区で、有権者が、自身の票が死票になることを避けるため、本当に投票したい本命の候補者でなく、接戦になりそうな上位の候補者のどちらかに投票したり、支持政党があっても、自身の選挙区にその党の候補者がいない、あるいは、その党の自身の選挙区の候補者が好きではないといった事情等で、他の党の候補者に投票したりといった事情によると思われる。他の有権者の投票行動に、自身の投票行動が左右されてしまうのである。
上記は、あくまで仮定であるため、衆議院を全て比例代表制で選出するとなった場合に、どのような結果になるかは分からないが、政策実現のための団体である政党を有権者が選び、その団体の候補者名簿が、男女交互に同数となっていれば、選挙の在り方やその結果は全く異なったものになるのではないだろうか。
フランスで、政治の場での男女平等が大きく前進した20年間に、日本での女性議員の割合は伸び悩んでいる。女性議員が増えさえすればよいという訳ではないが、多様性の確保が強く求められている現在においてなお、国の在り方の根幹を担うべき選挙制度は、「清き一票」を求め、選挙カーが走り回る状況から脱却できていないように思われてならない。