【(1)事案の概要】
大阪市立万領保育所で働いていた保育士中山淑恵さんは、今から13年前の平成7年11月25日、保育所内でくも膜下出血で倒れ、同月27日、44歳の若さで亡くなりました。淑恵さんは、昭和47年に大阪市に採用されて以降、大阪市内の4カ所の保育所に勤務してきました。子どもが大好きで、どんなに厳しい職場環境のもとでも、子どもの成長していく姿に喜びと働きがいを感じ、23年間、ずっと保育士の仕事に従事した人でした。
もともと大阪市では各保育所に十分な人員が配置されてこなかったため、ひとりひとりの保育士にかかる負担が重く、腰痛、頚肩腕症などの職業病が後を絶ちません。こうした職業病に市当局が真摯に対応しない状況の下、淑恵さんも休みが十分に取れない状況で無理を重ね、過重な保育労働に従事してきたのです。
【(2)淑恵さんの死は「過労死」であるとして公務災害を申請】
とりわけ最後の勤務場所となった万領保育所に転勤してからは、頚肩腕症の悪化、腰痛、慢性胃炎等で体調がすぐれず、亡くなる2年前には、およそ2か月の間、慢性疲労症候群で入院しました。退院後復職してからも、頭痛・腰痛・手足のしびれ・睡眠不足等の体調不良はずっと続き、大阪市の特殊健康診断でも、腰痛と頚肩腕障害がともに重症化して「要治療」の判定が出ていたのですが、職場の深刻な人手不足の中では簡単に休むことはできませんでした。亡くなった年(平成7年)、淑恵さんは主治医から再度入院を勧められていました。そのとき、「仕事が忙しくて入院できない」と答えた淑恵さんに、主治医は「仕事をやめるか、命落とすかどっちかや。」と言って、体を休めるよう強く指導されたそうです。そこで淑恵さんは、ようやく再入院を決意したのですが、その日程が決まった矢先にくも膜下出血を発症しました。ご遺族は、淑恵さんの死が過重な保育業務(公務)によるものであるとして、平成12年から地方公務員災害補償基金に公務災害の認定を求めてきました。
【(3)行政訴訟の提起に向けて-お願い-】
今年5月はじめ、地方公務員災害補償基金本部は、過労死の認定基準を形式的に当てはめることによって、淑恵さんのくも膜下出血発症は公務(保育業務)を原因とするものではないという決定を出しました。しかしこれは、頚肩腕障害の増悪がくも膜下出血発症をもたらすという医学的知見を無視した不当な判断です。今後は、司法の場で、淑恵さんの死が過労によるものであったとの認定を求める裁判(行政訴訟)を大阪地方裁判所に提起することになりました。
私は平成12年からこの事件の弁護団の一員として活動してきました。当時の淑恵さんの労働実態や家庭生活の様子について聴き取りを進めるにつれ、彼女が命を落とした原因は、仕事以外に考えられなくなっています。これから始まる裁判を前に、支援の会が作られました。不十分な労働条件のもとで健康を損ないながらも、良い保育をしたいとの思いを大事にして日々頑張っている、また頑張ってこられた多くの保育士さんたちが中心となって立ち上げられた会です。
保育所に子どもを預ける側にいた私は、淑恵さんの過労死事件に携わるなかで、保育現場の労働条件は想像以上に厳しいことがわかりました。人員不足の中で健康を害する仲間が増えると、体をこわしても休みづらくなり、結局無理して働いて症状の増悪を招いてしまうこと、それでも子ども達には精一杯良い保育者であろうとする、そういう人たちの善意と献身によって、自分の子どもも大切にされ、守られてきたのだということを思い知らされました。裁判の中で大阪市の保育労働の現場の実態を明らかにすることは、改善すべき点を明らかにし、労働条件や環境の改善につながっていくものと信じています。
このニュースレターをお読みの方の中に、平成元年から平成7年の間で、お子さんを万領保育所に預けていたことがある、あるいは、中山淑恵さんが我が子の、孫の、あるいは自分の担任だった!という方がおられましたら、聴き取りをさせて頂きたいと存じますので、是非ご一報下さるようお願いします。
【(4)未来へ】
淑恵さんは、亡くなる数年前、二人の娘さん(当時12歳と6歳)が10年後に読む手紙を、21世紀定期預金をする際に託していました。10年後の平成13年に開封されたその手紙はいま、自分に恥じない仕事をせよと、私の活動の原動力となっています。
さやか、あゆみへ さやかは、22歳になっている あなたは、どんな娘になっていることでしょう。 残り少ない学生をしているか それとも もうイキイキ働いているのかなぁー お母さんは 楽しみです。 おとなしいさやかは、大人になると、どんなんかなぁー あゆみは、16歳になって、もう高校生ですネ おしゃべりあゆみは、どんな娘になっているかなぁー 人生で一番素晴らしい青春時期に入ります くいのないものにして下さい 二人とも やさしく さわやかな 女性になっていてネ。 母より |