【子どもを深く傷つける、信頼する大人からの性被害】
今年5月20日、大阪地裁で、子どもに対する体罰と性的虐待を理由とする損害賠償請求事件の判決があり、裁判所は被告大阪市に100万円の損害賠償の支払いを命じました。原告の女性達(提訴時23歳)は、約10年前、大阪市立の中学校に在籍していた元生徒3名で、部活動の中で、顧問の男性教員より日常的に体罰を受け、そして、性的羞恥心、性的自己決定権を侵害される行為を受けました。
加害教員は個別指導の中で「心を裸にできてないから、お前はあかんねん。」などと叱責し、自分に「心を預けている証」として服を脱ぐことを強制し、下着姿の状態で抱きしめたり、指を咥えさせたり、揉み合いに抗しながら床を舐めるなどの屈辱的な行為を生徒達に強いたのです。
子どもが身近な、しかも信頼する大人から性被害を受けることが多くあること、そしてその被害が深刻なものであることを、社会は未だ十分認識していません。子どもは親や学校の先生といった信頼する大人を通して、社会全体への基本的信頼と心の絆を築いていきますが、その大人から裏切られ、傷つけられることは、子どもの心に計り知れない傷を残します。
また、信頼する大人からの性被害は、愛情や指導に基づく行為と思わされたり、子どもがその大人から離れる術を持たないが故に口にできなかったりして、表に出ることが少なく、表に出るのに時間を要するのも特徴です。
本件でも、被害を受けた元生徒の一人が母親に打ち明けたのは大学生になってからでした。母親は被害者が自分の娘だけでなく他の部員たちにも及んでいたこと、そして、同様のことが下の学年の後輩達にも「伝統の儀式」と呼ばれながら続いていることを知り、子どもに対する大阪市教委のセクハラ窓口に相談をするのですが、市教委は、加害教員が事実を否認し、事実確認ができないとして処分を行なわず、そのため本件提訴となったのです。
【加害教員は懲戒免職の処分】
性被害の救済事案で、大きな壁となるのが「消滅時効の壁」です。前述したように、子どもが被害を訴えることができるまでには時間を要しますが、その時には、消滅時効の壁(不法行為責任であれば3年、債務不履行責任であれば10年)が存在するのです。
本件において、大阪地裁の判決は、時効の起算点についての原告らの主張を容れず、不法行為については被告大阪市の消滅時効援用の主張を認めましたが、他方、「公立中学校の設置者である被告大阪市は、児童や生徒の生命・身体の安全のみならず、児童や生徒の自己決定権を守り、児童や生徒が心身を害されることなく健全に発育できるよう、生徒が置かれている教育環境全般を整える義務を負う」として、結論として、債務不履行責任で原告ら元生徒の救済を図りました。
なお、上記判決に対して被告大阪市は控訴せず、6月4日に地裁判決は確定しました。また、この判決を受けて、被告大阪市はようやく加害教員を6月27日付で懲戒免職にし、そして、加害教員によるセクハラ被害の調査を求めた元生徒達や母親に対し、「調査が不十分であった」ことを認め、謝罪をしました(6月27日の朝日新聞夕刊記事より。なお、原告代理人はあべの総合法律事務所の佐藤真奈美弁護士と乘井)。