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2002年09月16日
DV
雪田 樹理

DV防止法の成果と課題 弁護士 雪田 樹理

DV防止法(「配偶者からの暴力の禁止及び被害者保護に関する法律」)が施行されて、10カ月になろうとしています。この間、事務所には、DV(ドメスティック・バイオレンス)被害の女性から、多くの相談が寄せられています。

とりわけ、この法律が施行されてからは、DVについて学習し、自分がDVの被害者であることを自覚して相談にお見えになる方や、保護命令(DV防止法で新しく導入された制度)を得たいという意向で、相談にお見えになる方が目立つようになってきました。

セクシュアル・ハラスメントという言葉が広く普及するのにつれて、セクハラに関する人権意識が少しずつ確立されてきているように、DVもまた、この法律ができたことで、被害女性が声を上げはじめ、これまでは家庭の中に隠蔽されていた問題が、少しずつ表に出てきているようです。

DV防止法では、「保護命令」という新しい法制度と「配偶者暴力相談支援センター」という被害者の相談や保護を実施する機関の創設が規定されました。

暴力を振るった夫に対して、妻に対する6ヵ月間のつきまといや徘徊を禁止する接近禁止命令と、自宅等からの2週間の退去を命ずる退去命令の2種類の保護命令があり、保護命令に違反した夫に対して、1年以下の懲役か100万円以下の罰金の刑を科すことで、その実効性を担保する仕組みになっています。

施行後6ヵ月余りの5月末までの保護命令の申立件数は全国で500件を超え、大阪では60件を超えています。

私もいくつかの保護命令の事件を担当しましたが、保護命令を取得したことで、多くの場合、妻は夫からの接近を逃れ、一応の安心した生活を送ることが可能となり、また、夫を自宅から退去させている間に必要な荷物を運び出して、新しい生活に役立てることができています。また、保護命令が発令されると、裁判所から各都道府県の警察(生活安全課)に通知されるため、これまでは夫婦間暴力には消極的だった警察も、積極的に被害者の保護に努めるようになってきています。

しかし、接近禁止が6ヵ月間と短いために、離婚訴訟中に期限が切れてしまったり、あるいは、保護命令では、電話やメールなどによる接近が禁止されておらず、また、妻が同伴している子どもや親族への接近が禁止されていないために、夫からの電話やメール送信に悩まされる、あるいは、子どもに会わせろという夫からの父親としての要求に悩まされ続けるといった問題が生じています。このような夫からの執拗な接近は、暴力の被害によって精神的に大きく傷ついている女性にとって、恐怖以外の何ものでもありません。安心して気を休めるということのできない日々が続くのです。

これらの他にも、保護命令の申立が配偶者間にしか認められていないので、交際をしている男女間の暴力には利用できないこと、身体的暴力のみが対象とされていること、手続の煩雑さ、裁判所で命令が出されてから夫に届くまでの空白期間という危険な事態が生じること等々、現行法では被害者保護に、かなり不十分な面のあることが、実例から浮き彫りになってきています。

DV防止法が、本物のDV防止法になるためには、多くの点で法改正をしなければなりません、DV防止法には、3年後を目処に、法改正を検討することが規定されていますが、3年後に、本当に、本物のDV防止法を誕生させるためには、法改正へ向けた大きな運動と具体的な提言をしていくことが求められています。そのために、私たちの事務所での多数の経験を生かしていきたいと考えています。

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