【「人生で最も悲しいことは、不幸になることではなくて、不幸を共に泣いてくれる人のいないことである」】
この言葉は、きっと有名な人の言葉なのだと思うが、いつどこで読んだのか、誰から聞いたのか定かでないままに、私の心のなかにある。
もう10年以上も前の均等法施行後のこと。「均等法実践ネットワーク講座」という学習会の事務局を担当していた私は、そこに集まってくる女性たちから、「均等法が施行されても、私の周りには何の変化もない」という嘆きを聞かされた。
長年働き続ければ続けるほど、大きくなっていく賃金格差。一向に変わらない差別的な職務配置。評価されない人事査定の中で、働き続ける喜びも奪われそうになっている彼女たちの思いに共感することはできた。しかし賃金格差を立証するだけのデータを持っているかという弁護士の目で見ると、諦めへの道をアドバイスしてしまいそうになる。そんなときに思い起こしたのが、この言葉であった。
私は女性たちを励まし、均等法の調停申立、そして裁判と、その代理人を務めることになった。その過程で見えてきたものは、わが国の企業社会における牢固とした男女差別意識であり、そしてそれを容認する裁判所の時代遅れの感覚であった。
彼女たちの不幸を共に泣く中で、私は日本の企業社会の歪みそのものに、たたかいを挑んでしまっていることに気がついた。経済的な男女の不均衡が、女性に対する暴力を生みやすい土壌ともなっている。女性の不幸は、男性の不幸と裏表である。
「女性」をキーワードにした法律事務所があれば。そんな思いに共感してくれる仲間を得ることができ、私は50歳を目前に、新しい出発をすることになった。これからも多くの人たちの悩みの中で、自分を鍛え、そして成長させていきたいと思っている。