【読書会への誘い】
昨年5月から月に1度のペースで、女性ライフサイクル研究所が主催されている『心的外傷と回復』(ハーマン著、みすず書房)の読書会に参加しています。
『心的外傷と回復』(以下「本書」と言います)は性的、家族的暴力などの被害者に関する臨床・研究の集大成であり、性暴力被害者やDV被害者を支援する者の間ではバイブルと呼ばれています。
私もいつか読みたいなと思いつつ、その分厚さ(ハードカバーで3.5cmもあります)と難解さのせいで長い間、積読(つんどく)状態になっていました。
そんななか、あるML(メーリングリスト)で読書会のお誘いというのをみつけ思い切って参加してみることにしました。
【『心的外傷と回復』の中身をご紹介(少しだけ)】
本書では、外傷後生存者の証言を中心にトラウマの原因や諸相を詳細に分析し、新たな診断名の提唱をはじめとして治療法の確立を試みます。
心的外傷とは、最近ではよく聞かれるようになりましたが、レイプ、家庭内暴力、近親間強姦、戦争の被害者に共通してみられる症状で、いわゆるPTSDがその代表例です。
レイプ、家庭内暴力をはじめとする外傷的事件は、基本的な人間関係である、家族愛、友情、恋愛、地域社会へのアタッチメント(感情的つながり)を引き裂き、個人の信仰や安全であるという感覚を打ち破り、被害者を孤立に追いやります。つまり、外傷的事件は人間がもつ人生への適応行動をめちゃめちゃにして、その人の生命を脅かし、身体の統一性を脅かします。
そして、外傷的事件による記憶は「ことばを持たない凍りついた記憶」としていつまでも被害者にとどまり続け、それは時に『消去不能のイメージ』であり『死の刻印』であるとも言われています。
そのような厳しい状況のなか、被害者はその後の人生で孤軍奮闘することを余儀なくされるわけですが、その闘いは極めて過酷で回復への道のりは容易ではありません。
しかし、本書では、被害者の証言や体験を丹念に検証することにより、回復へのヒントを見出し、希望へとつないでいきます。
【印象に残ったある被害者の言葉】
被害者は外傷事件によって苦しめられるだけでなく、その後の誤診や偏見、周りの無理解によっても傷つけられる危険があります。
これまで間違った診断をされ、さんざん無効な治療を受けてきた児童期虐待の被害者が、当時を振り返って、もし当時の精神科医に会えるなら「せんせいは誤診です。ほんとうは生涯続く悲しみだけれど、大丈夫です。」と言ってやりたいと語るシーンがありました。私は、被害者のその言葉があまりにも切なくて、強く印象に残りました。
被害者にとって自分の苦しみが公正に評価、理解されないことは耐え難いことで、より孤立感を深めることにつながります。私も被害者支援に携わる者として『誤診』をしないよう気をつけたいと思いました。
【参加者のみなさん】
読書会には、臨床心理士さんのほか、医療関係者や弁護士、その他、様々な職業の方が参加しておられます。業種は違うけれど、同じ支援者ということで、それぞれの立場からの苦労や経験談をうかがうことができ、とても勉強になります。そして、参加者の方が悩みながらも懸命に被害者に寄り添おうとされている姿に胸を打たれ、いつも最後は、「参加してよかった、また明日からがんばろう」という気持ちになれます。
【むすび】
私も、これまでの人生で色々な体験をし、なんとか自分なりに克服してきましたが(たぶん)、読書会のおかげで、今元気でいられるのは、周りにいた人たちが私を受け容れ、私の生の言葉に耳を傾け続けてくれたからだと改めて感謝することができました。
人間にとって、語れないこと、理解されないことほど辛いことはありません。人が回復するということは、人とのつながりや社会とのつながりを取り戻すことであると本書を読んで改めて感じました。