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2016年08月30日
性差別・ジェンダー
宮地 光子

夫婦別姓訴訟判決にみる最高裁の平等観とその背景                       【弁護士 宮地 光子】

【「男女間の平等は形式的でよい」!?】

わが国において、法律婚を選ぼうとすると、夫または妻のどちらかの氏を選択しなければなりません。民法750条が「夫婦は、婚姻の際の定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と定めているからです。そして、この法律の定めのもとで、現在においても96%もの夫婦が、夫の氏を称する婚姻を選択しています。

このことが離婚の際に、妻側に様々な手続き上の負担を課すことになっていることは、私たちが離婚事件の中で日々実感していることですが、その負担と不利益は、妻が職業を持っている場合には、さらに大きなものになります。このような妻側の不利益を回避することを目的として、平成8年には、夫婦別氏を選ぶことができるとする選択的夫婦別氏制を内容とする民法の一部改正案が法務大臣に答申されましたが、いまだに国会へ提出されないままです。

そんな状況の中、婚姻により氏を変えた女性や、その後離婚した女性たちが原告として提訴していた「夫婦別姓訴訟」について、東京高裁は原告らの慰謝料請求を棄却する判決をしていましたが、昨年12月16日、最高裁大法廷も、原告の女性達の上告を棄却して、彼女らの請求を認めない判決を言渡しました。この判決を読むと、最高裁が「平等」というものをどのように考えているかが良くわかります。

最高裁の大法廷は、15人の裁判官で構成されますが、うち10人の裁判官が民法750条は合憲であると判断し、これが法廷意見(多数意見)となっています。多数意見は、民法750条は、夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているのであって、その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく、その規定自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではないとして、憲法14条にも憲法24条にも違反しないとしました。

ここで明らかなことは、最高裁が、憲法が求める男女間の平等は、形式的な平等であってよいとしている点です。いくら形式的な平等が法律で定められていたとしても、96%もの夫婦が、夫の氏を称する婚姻を選択しているということは、そこに、差別的な意識や慣習の存在があり、実質的な平等には至っていないことが明らかです。しかし、最高裁大法廷の多数意見は、そのような実質的平等の実現は、立法裁量に委ねられるのであって、憲法違反の問題は生じないとしました。15人のうちの残り5人の裁判官(うち3名は女性)は、民法750条を憲法に違反すると判断しており、とりわけ大法廷の女性裁判官は全員が、民法750条を憲法に違反すると判断している点が注目されます。

 

【現代社会にふさわしい平等観に変えよう】

それにしても最高裁大法廷の多数意見が、憲法の定める平等について、単なる形式的平等であってよいなどと明言していることには、日本の司法の後進性を感じずにはおれませんが、この大法廷の多数意見を良く読むと、さらに以下のような記述のあることに気づきます。

「…夫婦及びその間の未婚の子や養親子が同一の氏を称するとすることにより,社会の構成要素である家族の呼称としての意義があるとの理解を示しているものといえる。そして,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるから,このように個人の呼称の一部である氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性があるといえる。」

この判示は、自民党の憲法改正草案で、現行の憲法24条に追加されようとしている下記の条項とよく似ています。

「家族は、社会の自然的かつ基礎的な単位として尊重される。家族は互いに助け合わなければならない。」

戦前・戦中の国家体制においては、家族は、天皇を家長と見なす国家と国民の絶対的な関係の縮図とされ、国民が個人個人としてバラバラに生きることを認めないための社会集団の最小単位とされていました(山崎雅弘著『日本会議―戦前回帰への情念』223頁「日本会議はなぜ『家族条項』に固執するのか」参照)。

そのことに考えを巡らせるとき、民法750条を違憲としなかった最高裁の多数意見は、深い政治的配慮に基づくものであったのではないかと感じます。そしてだからこそ、最高裁の平等観を、現代社会に相応しいものにする取組みを、これからも諦めずに積み重ねていかなければならないと痛感しているところです。

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