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2026年08月06日
性被害・セクハラ
田中 嘉寿子

性被害者のPTSDを「致傷」で起訴させよう 弁護士 田中 嘉寿子

性被害者の約50%以上がPTSDを発症することは、医学的常識です。しかし、不同意性交等罪などの性犯罪で、PTSDを致傷とする「不同意性交等致傷罪」で起訴される事例は非常に稀で、1%前後です(「致傷」罪の起訴率が約6%、大半は身体的負傷と想定)。

他方、性被害者のPTSDが「致傷」として起訴された裁判例が約10件確認できましたが、弁護人が「PTSDではない」「PTSDと本件被害との因果関係はない」と争っても、医師の証言から全て致傷が認定されています。中には、被害後15年後の診断で認定された例もあります(東京高判令4.9.8(LLI/DB07720309))。

検察官がほとんどのPTSDを「致傷」として起訴しない原因は、1警察段階で被害者が未受診・未診断で送致罪名に「致傷」が付いていない、2検察官がPTSDを軽視して「致傷」として扱わない、3国際的診断基準(DSM/ICD)に基づき診断して証人出廷する精神科医が少ないなどが想定されます。

これに対し、検察官は、1被害者に受診・診断を促す、2診断が得られれば訴因変更請求する、3精神科医との連携協力を高めればよいのです。そうしないのは、検察官の怠慢・被害者軽視です。

性被害者のPTSDは、単なる量刑事情ではありません。被害自体の立証に極めて重要な間接事実であることは、PTSDの発症機序から明らかです。

例えば、否認する被告人は、「性交していない」「被害者は性交に同意していた」などと主張します。しかし、もしそれが真実なら、被害者には心的外傷体験はなく、PTSDを発症し得ません。国際的診断基準では、A基準:心的外傷体験(実際に又は危うく死ぬ、深刻な怪我を負う、性的暴力など、精神的衝撃を受ける体験)、かつ、B基準:PTSD症状(侵入、回避、陰性認知、過覚醒等)があります。心的外傷体験がなければ、PTSDを発症するはずがありません。心的外傷体験は、戦争・災害・重傷・性被害などの死に直面する恐怖体験です。

ほとんどの性被害者は、性被害以外に心的外傷体験に該当する経験をしていませんから、現在PTSD症状があることは、被害者に性被害という心的外傷体験が存在したことを裏付ける最良証拠の一つです。

PTSDの発症機序は、死に直面する強い恐怖体験時、脳内ホルモンが過剰噴出することにより、恐怖記憶を固定させる扁桃体の機能が活性化しすぎ、これを消去する前頭前皮質の機能が低下する脳機能異常によることが医学的に解明されつつあります(福永浩司他「心的外傷後ストレス症候群(PTSD)の神経機序と治療戦略」日薬理誌152,194ー201(2018)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/152/4/152_194/_pdf/-char/ja))。

発症機序に鑑み、性交がない・同意性交後に関係がこじれるなどの事情ではPTSDは発症しません。PTSD症状の有無については、CAPS-5などの正確性・妥当性が内外で検証済の検査手法が確立しており、医師を騙せません。

このように、被害者のPTSDの有無・症状は、被害の重要な間接事実です(なお、発症しない人も約半数いるので、発症しないことは被害を否定する事情ではありません。被害が軽い、被害後に二次加害を受けず、周囲の支援があるなどの場合、発症しないことも十分あり得ます。)。

性被害者の代理人弁護士は、被害者にPTSD症状がある場合、国際的診断基準に即してPTSDの診断ができる医師を受診し(大阪府 地域連携拠点医療機関一覧(疾患別) PTSDなどで確認)、診断書を得て警察・検察に提出し、主治医に証人出廷を依頼し、家族などの陳述書を提出する(本人が自覚せず、医師にも見せていない日々のPTSD症状を家族がよく観察している場合も多い)などして、「致傷」での送致・起訴・訴因変更を求めていくことが重要です。

PTSD症状を示す客観的資料を記録して提出してもよいでしょう。例えば、PTSD症状の出来事を記録し、「○月○日、○○を見てフラッシュバックが生じた(救急搬送された記録)。○月○日、仕事で○○に行く必要があったが事件と似た○○のため行けなかった(勤務変更を要した記録)。」などと日誌を付け、その裏付け資料になる記録があれば添付しておきます。

被害者の中には、受診したくない・裁判員裁判が嫌だという方もいるかもしれませんが、PTSDは放置すれば悪化しやすいので、代理人弁護士は、「致傷」にすることのメリット・デメリットを丁寧に説明し、その希望に即して対応する必要があります。

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