素敵な本に出会いました。
「いっしょにいるよ〜子どもと裁判に出た犬 フランとハッシュの物語〜」(涌井学著、小学館、2022年7月発行)です。
本の帯には「ハッシュがいたからわたし話せたんだよ 傷ついた子どもを癒す付添犬の実話を基にしたストーリー」とあります。
2020年7月、父親からの性虐待を受けた子どもが刑事裁判で被害を証言する際、その精神的負担を軽くするために「付添犬」を伴って裁判所に出廷するという取り組みが認められました。画期的なことです。海外ではコートハウス・ドッグと呼ばれるもので、すでに先駆的な取り組みがなされていましたが、国内では前例はなかったとのことで、本著ではこの初のケースはもちろん、そこに至るまでの子どもたちのサポートの実話が紹介されています。
司法手続きの中では、親からの虐待や性被害を受けた子ども、あるいは家庭内でのDV被害に遭った子どもが自分の経験を大人に話さなければならない状況になることがあります。けれども、大人に囲まれて話をするのはそれだけで緊張を強いられます。まして、辛い過去を思い出し、口にしなければならないということは、子どもの心にとって更なる苦しみとなります。
そんなとき、傍らで穏やかに寄り添い、凍った子どもの心を温める存在が求められます。「犬のもつ不思議な力」が子どもを助けるのです。本著では司法手続きに臨む子どもの緊張感と苦しみがそのまま読者に伝わってくる一方、フラン、ハッシュという名前の付添犬が、その場でどうしていたのかといったことがつぶさに書かれていて、「いっしょにいるよ」「ここにいるよ。だからだいじょうぶだよ。」と、子どもの心を温めてくれていた様子がわかります(何の先入観も思惑もなく、ただそこにリラックスした状態で、たまに尻尾を振ったり、あくびをしたりして居るだけなのに・・・。でも、それがとても大事なんでしょうね)。
この本のベースは、「子どもたちの受ける傷をほんの少しだけでも小さくしてあげたい」と立ち上がり、コートハウス・ドッグの取り組みを国内でも広げようと日々奮闘する方々(医師、獣医師、弁護士等の方々)のお話でした。
なお、コートハウス・ドッグを日本でどう呼んで根付かせようかと、関係者が相談するくだりでは、「子どもお助け犬」とか「寄り添い犬」とかの案が出されたとのこと。ほっこりしますね。そして、最終的に少年事件の「付添人」にヒントを得て、「付添犬」とネーミングされたとのことでした。
また、現在活動は「NPO法人子ども支援センターつなっぐ」の活動として、ホームページ等でも「再現ビデオ」などがアップされ紹介されています。
弁護士 乘井弥生