1 とんでもない法律が成立
6月15日、参議院本会議で、組織的犯罪処罰法改正案(いわゆる共謀罪法案)が可決され成立しました(7月11日から施行)。内心の自由や表現の自由といった人権に対する侵害のおそれがある重大な法律が、審議を充分尽くさず強行採決されたことに、憤りを禁じ得ません。
そもそもこの法律はどういうものか。227という極めて広範囲の犯罪について、複数の人が計画に合意して準備行為をすれば、処罰の対象となるという法律です。政府はテロ等準備罪という言葉を使いましたが、内容は2003年、2005年、2009年と過去3回廃案になった共謀罪が名前を変えた法案でした。
我が国の刑法で人が罰せられるのは、犯罪にあたる行為を現実に実行し、結果が生じた「既遂」が原則であり、「既遂」に至らない未遂・予備の処罰は例外とされてきました。具体的危険から遠い行為を処罰の対象とすると、恣意的運用を許し、さまざまな自由を奪い、市民運動を極端に萎縮させるおそれがあるからです。犯罪として処罰される行為と科される刑罰は、予め明確に規定されなければならないという罪刑法定主義の原則は刑事法の根本です。
しかし、今回成立した共謀罪法は、これら我が国の刑事法の体系や基本原則を大きく変更する重大な内容です。そうであるからこそ、国民の多くが「慎重な審議を」との声をあげたにもかかわらず、きちんとした審議もなされずに成立させた、まさに、とんでもない法律なのです。
2 「オリンピック開催のために法律が必要」との説明はごまかしだった
政府は法案提出にあたり、国民に対して「世界各地でテロがおこっている。3年後に迫ったオリンピックを開催するためにも、テロを含む組織犯罪の未然防止に万全の態勢を整える必要がある」などと説明をおこなっていました。しかし、オリンピック開催を誘致するときに、このような法律が必要だとの議論が持ち出されたことはなかったように思います。
また、テロ対策についても、共謀罪法案が国会に上程される直前まで、外務省のHPでは「日本はテロ対策の国際条約を全て締結し、対応している」との説明をおこなっていたのであって、政府がこの時期、共謀罪法をゴリ押しで成立させた意図は別にあると言わざるを得ません。
3 「一般市民が対象となることはない」は真実か?
政府は「適用対象は組織的犯罪集団だけ、一般市民が対象となることはない」とし、犯罪とは無縁の一般市民の生活が、この法律によって影響を受けることはないかのような説明をしてきました。
しかし、そもそも、組織的犯罪集団が、自ら、犯罪集団だと名乗りをあげること自体考えにくいことです。どこにでもあるような名称を使った組織的犯罪集団と、憲法上の市民的自由に基づく活動をおこなう団体をどのようにして区別するのでしょう。結局、何が組織的犯罪集団なのかどうか捜査機関が見極めるために、組織的犯罪集団も、組織的犯罪とは無縁の市民も、等しく監視の対象となりうるわけです。
政府は、メールやLINEのやりとりで犯罪の計画に「合意」したかどうかを判断する場合もあると説明していますが、今後、通信傍受の拡大など、市民生活に対して、じわりじわりと監視の強化がなされる危険のあることを、私たちは知る必要があります。
4 今後は運用を注視し、廃止に向けて取り組む必要があります
大阪弁護士会は、共謀罪法案が、市民の自由、人権に対する侵害のおそれがあるとして、廃案のために、これまで多様な活動をおこなってきました。残念ながら法律は成立してしまいましたが、今後は、憲法で認められている基本的人権の侵害がなされないよう、司法手続きにおける取り扱われ方等、その運用を注視し、廃止に向けて取り組む必要があります。