女性共同法律事務所には、様々な状況の暴力サバイバーが相談に来られると思います。これから離れたい人、安全確保が必要な人、やっと法的な闘いができるほどの体力と気力を取り戻せた人…いくの学園の電話相談も同じです。その中で一つわかったのは、暴力(DV、家族からの暴力、性暴力など)の相手・現場から離れても、暴力の影響のしんどさは、それだけでは終わらないということです。
いくの学園では、シェルター事業だけでなく、退所後の支援も続けてきました。学園退所者以外の人にも支援を広げ、2017年の4月から、サバイバーが定期的に通える居場所(通所施設)を立ち上げたいと考えています。サバイバーが安心感を積み重ねていきながら、暴力の影響からの回復を仲間と一緒に目指せる施設が目標です。そのモデルを示してくれたのは、アルコールや薬物依存症の回復施設を作った人たちです。依存症の背景には、被害体験によるトラウマと生きている人が多く、その回復の道筋からたくさん学べます。
暴力は安心感を奪い、その影響は日常生活や人間関係に様々な困難をもたらします。いくの学園のモットー「人は人の中で守られる」の通り、人に傷つけられた場合、そこから回復できるのも、人の中だと信じています。もちろん一人ひとりに必要な時期・期間・速度・方法があります。一つの集団として画一的に動くのではなく、北海道の「べてるの家」で言われるように、「自分自身で・共に」各自の仲間がお互いを見守りながら、自分に合った回復を見つけられる場を作りたいです。
恐怖と不安で固まってしまった身体と心と頭(思考)に安心感が生まれる働きかけが大事だと考えています。ヨガ、芸術などの自己表現、人と一緒に食べること、言いっぱなし聞きっぱなしのグループミーティング、勉強会、人との新しい関わり方を練習するなど、暴力によって抹殺された感覚が開花できる方法を増やしていきたいです。
障害福祉の事業に先駆けて、2016年7月から2017年3月まで、大阪府の助成金を受けてサバイバーのための居場所を開設しています。「LGBTの日」「親子の日」も設けて、幅広い範囲のサバイバーに開かれています。来年の4月からは、特に女性のサバイバーが安心して通える場所を目指します。障害福祉の通所施設はいろいろありますが、トラウマと女性サバイバー特有のニーズを中心に考えている障害福祉サービスは非常に不足しています。
暴力の影響によって難しくなること(寝る、食べる、家事、外出、仕事、人との関わり)を考えると、ヘルパーや作業所などの障害福祉サービスはサバイバーにとって有力な社会資源に思えます。が、実態としてはサバイバーのニーズに合わず、利用しづらいことが多いようです。電話相談などで聞かれるのは、利用者には男性や声の大きい人が多い、フラッシュバックの引き金がたくさんあることと、そのために職員とうまくいかない、との声です。「なぜシェルターが障害福祉サービスを?」という疑問は、いくの学園の中でもありました。日常生活まるごとで関わるシェルターだからこそ、理解してもらいにくいサバイバーのニーズを知り、暴力を離れた後の生活を支えることができると考えています。
この取り組みがサバイバーへの個別支援と同時に、サバイバーの課題や暴力とトラウマの影響についての啓発、暴力の根絶につなげていけることを願っています。皆さんも、当事者、支援者、身近な人として、ご活用とご支援、ご協力をよろしくお願いします。
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