低い報道の自由度
国際人権NGO「国境なき記者団」が毎年発表している報道の自由度に関する調査で、日本は昨年に続き、180か国中72位でした。G7では最下位です。
昨年4月に来日した国連の「意見および表現の自由」に関する特別報告者デービッド・ケイ氏が、先日公表した調査報告書では、「メディアの独立」に関して、政府当局者の直接・間接のメディアへの圧力が報告され、独立性に懸念があると指摘しました。
「報道の自由」は、民主主義社会の根幹となる憲法上の権利です。私達一人ひとりの知る権利、表現の自由が全うされるためには、国家による情報公開はもちろんのこと、メディアによる取材の自由、報道の自由が保障されていなければなりません。ところが、今の日本社会では、この「報道の自由」に危険信号が鳴り響いています。
報道の現場で起きていること
昨年2月、高市早苗総務大臣が、国会の衆議院予算委員会で、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反として、電波法76条に基づく電波停止を命じる可能性があると発言しました。
著名なジャーナリストらが、すぐに「電波停止」発言に抗議する放送人の緊急アピールを発表しました。緊急アピールには、報道の現場からの切実な声が挙げられていました。政治の圧力に委縮して、政権の意向を忖度し、自由な政権批判ができない空気が蔓延している現場の危機的な状況を訴える声です。
ある関係者によれば、そのような空気は、2012年12月の選挙の時に、自民党が選挙報道にあたっての「要請文」を放送各社の記者一人一人を呼びつけて手渡すという異例の政治介入を行って以後、デモの批判的な映像を自粛するなどのニュース報道に明らかな影響が出ていると指摘しています。
ジャーナリストで上智大学教授の水島宏明氏は、同氏の講演で、テレビ報道では、一連の政治的圧力発言によって内部崩壊が起きていると指摘し、以前はあった選挙の時の街頭インタビューをニュース報道から消したり、「偏向している」という言い方をされるリスクがあるために、調査報道がしづらい状況になっているなどと述べています。
昨年4月には、「クローズアップ現代」(NHK)の国谷裕子氏、「報道ステーション」(テレビ朝日)の古舘伊知郎氏、「ニュース23」(TBS)の岸井成格氏という実績のあるキャスターが同時に降板するという出来事があり、背景に政治圧力があったのではないかということが囁かれました。
読売新聞にみる政治との癒着
5月3日、「憲法改正20年施行目標」と題する安倍晋三首相のインタビュー記事が読売新聞に掲載され、その後、国会で憲法改正について質問された安倍首相が、「読売新聞を熟読してほしい」と答弁したことで、安倍首相と読売新聞との関係が注目されました。その後、加計問題の告発者である文部科学省前事務次官の前川喜平氏を叩くために、読売新聞が、前川氏が在職中に出会い系バーに出入りしていたことを報道しました。
週刊誌等の報道によると、このネタは、昨年秋に各社記者の間で知れ渡っていたが、贈収賄や買春などの事実が出てこなかったためにお蔵入りになった情報であり、そのような記事を掲載したことに対して、他社の記者らから同じメディア人として大きな批判と疑問が出されています。さらに、読売の報道とタイミングを合わせたかのように、菅官房長官が会見で前川氏の人格攻撃をしたことから、加計問題の疑惑追及をかわすための報道であったとの指摘がなされています。
日本を代表する大手新聞社で、政治によるメディア利用が疑われる事態が露骨に行われている現実を前に、私達一人ひとりが報道のあり方に関心を持ち、監視していかなければ、本来、権力を監視する役割を果たすべき日本のジャーナリズムは死んでしまう、そんな危機感を抱いています。