民法の改正
2012年4月の民法改正に際し、離婚届に、面会交流と養育費の分担の取決めの有無についてチェック欄が設けられています。取決めをせずとも離婚届は受理されますし、離婚の効力に影響もありません。
改正前の民法は、「(離婚時には)子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める(766条1項)」と、定めていましたが、改正後の民法では、「子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない(766条1項)」と定めています。子の監護に関して、特に、面会交流と養育費(子の監護に要する費用)の2点が新たに強調されたことが分かります。
裁判所の判断の傾向
上記民法改正の前後から、裁判所は、「面会交流は子の福祉に資する」という前提の下、別居親による子への激しい身体的虐待等、面会交流を禁止すべき特別の事情がなければ、原則として面会交流を実施する立場に立つようです。同居親が、面会交流の実施が困難な事情を主張しても、多くは裁判所によって面会交流が命じられます。
例えば、子の面前でのDVは虐待の1つと定義されますが(児童虐待防止法2条4号)、私のこれまでの経験では、面前DVを理由として面会交流が禁止されたことはありません。子が、体罰を受けていた等の理由で面会交流を嫌がり、体罰の事実を説明して、会いたくない気持ちを話しても、「別居親への良いイメージを回復させる必要がある」という理由で、面会交流を命じられることさえあるのが現状です。
もちろん、面会交流を実施し、子が、久々に別居親に会って話をして、「話せてよかった」「自分の気持ちを伝えることができた」と、ほっとした顔を見せてくれれば、同居親も、面会交流の継続が子のためになると心から思えますし、実際に、面会交流が子の心情の安定に役立っているケースもあります。また、面会交流の支援を行う団体もあります。
ですが、現在の裁判所では、面会交流を定めた後のフォローの仕組みはありません。面会交流が、本当に「子の福祉に資する」ものとなっているか、検証する場がないのです。
裁判例の紹介
昨年3月、千葉家裁松戸支部において、別居親(父)が、自分が親権者になり子を引取った場合には、母と子の間で、年間100日の面会交流を実施すると主張し、父が親権者と指定された判決がありました。母が、自分が親権者になった場合には、月に1回程度の面会交流を実施すると主張したのに対し、裁判所は、子がそれまで一緒に生活してきた母から離れ、引越や転校等の不利益を被るとしても、面会交流を多く実施するという利益が優ると判断したのです。
ただし、控訴審の東京高裁は、これまでの養育状況や子の現状や意思を総合的に考慮すべきと指摘し、母による養育環境に問題はなく、引越や転校をして子の環境を変える必要性もないこと、年間100日もの面会交流は却って子の負担になること等から、子の利益を最も優先して考えれば母親を親権者とすべきと判断しました。
最後に
上記の家裁の判断は、面会交流を過度に重視するもので、「子の福祉」の判断基準に誤りがあると感じられますが、面会交流への積極性は、親権者の指定の際、判断材料の1つとされることは事実です。
面会交流を実施できない場合には、なぜ実施できないのか、裁判所に丁寧に説明し、立証する必要があります。特に、DV被害者は、面会交流のために別居親と連絡を取ることによって、恐怖心がよみがえる等して日常生活すらままならなくなり、結果として、子の生活が不安定になることも実際にあります。
面会交流が、同居親と子の生活を破壊してしまう危険性について、裁判所は、真摯に向き合うべきだと思っています。