性犯罪の問題への関心が広がっている
2017年刑法改正時の附則9条において、「政府は、この法律の施行後3年を目途として、性犯罪における被害の実情、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるもの」としてから、今年は3年目になります。
日本では、#Me Tooが諸外国のような大きな社会のうねりになることはありませんでしたが、昨年3月に地裁レベルで4つの無罪判決が出されたことをきっかけに、それに対する批判の声が高まりました。
4月11日に東京で開かれた「フラワーデモ」(花を身に着けて集まり、性暴力について自由に語り合う集会)は、今では毎月11日に全国各地27カ所にまで広がり、刑法改正を求める動きが目に見える形で動いています。
最近では、性暴力の被害当事者・その家族・支援者・支援団体・性暴力救援センター等関係機関の関係者にとどまらず、これまで性犯罪の問題に関心のなかった男性達の間でも賛同する声が広がり始めていることを実感しています。
そんな中、昨年11月21日、刑法改正を現実のものとするため、12団体からなる「刑法改正市民プロジェクト」が院内集会を開催しました。
法務大臣宛てに、刑法改正の審議を早急に始めること、審議する委員には被害当事者や支援団体、性犯罪に詳しい専門家や研究者から選任することを求める要望書を提出し、性暴力被害の実態に即した刑法改正の実現を求める要請を行いました。同時に、私が所属するヒューマンライツ・ナウが作成した「私たちが求める刑法性犯罪規定改正案(叩き台)」を刑法改正市民プロジェクトの総意として発表し、国会議員らへの本格的な議論を呼びかけました。
2017年に改正された強制性交等罪には、旧強姦罪と同じく「暴行または脅迫を用いて」の要件が残されており、この要件が性暴力の実態に即しておらず、被害者にとっての障害になっていることは、これまでのニュースでも紹介してきました(2015・2017・2018・2019年冬号を参照ください)。
被害の実態に即した改正を提案
私たちが叩き台として提示した刑法改正案では、ドイツ刑法を参考にして、「他の者の認識可能な意思に反して、性交等を行った者」は「不同意性交等罪」とし、3年以上の有期懲役に処すること。
暴行脅迫を用いた場合には「加重不同意性交等罪」として現行法と同じ量刑である5年以上の有期懲役に処すること。また16歳未満の者に対して行った者を「若年者不同意性交等罪」として5年以上の有期懲役に処することを提案しました。
また、強制わいせつ罪については、「わいせつ」という概念を用いず、「性的接触罪」として、同じく「不同意性的接触罪・加重不同意性的接触罪・若年者不同意性的接触罪」とすることを提案しました。
そして、「抗拒不能」の要件が要求されている現行の準強制わいせつ・準強制性交等罪に関しては、「同意不能等性的接触罪・同意不能等性交等罪」として、スウェーデン法を参考に、「人の無意識、睡眠、恐怖、不意打ち、酩酊その他の薬物の影響、疾患、障害もしくはその他の状況により特別に脆弱な状況に置かれていた状況を利用、またはその状況に乗じて行った者」に成立する犯罪としました。
さらに18歳未満の者を保護する目的で2017年改正で導入された監護者わいせつ罪・監護者性交等罪に加えて、新たに「地位関係利用性的接触罪・地位関係利用性交等罪」として、「現に監護又は介護する者、親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員そのほか同種の性質の関係にある者」が「監督、保護、支援の対象になっている者に対する影響力があることに乗じた」場合の犯罪類型を提案しました(全文はhttp://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2019/11/b056851998f5febe6b88e1a7ed979dbe.pdf)。
これらは、あくまでも叩き台としての提案です。2020年は、私たちが提示した叩き台をもとに大いに議論が巻き起こり、性暴力の被害実態に即した刑法改正が実現する年になることを願っています。