年間残業500時間で手取りは月16万円!?
昨年11月6日のNHK「クローズアップ現代+」は、「揺れる“非正規公務員”~急増する背景に何が?」のテーマで、非正規公務員の実態を放映した。
映像のなかで登場した非正規公務員は、そのほとんどが女性であった。職種は、DV専門の相談員、小学校・中学校の常勤講師、児童相談所の非常勤職員など。労働実態は過酷だ。DV専門の相談員の女性は、月曜から金曜まで、週30時間働いて、手取り月額11万円。自らも母子家庭だが、この本業の収入だけでは暮らしていけず、深夜、清掃のアルバイトをしていると言う。児童相談所の非常勤職員の女性は、年間500時間の残業を余儀なくされるほどの長時間労働だが、月の手取り16万円。しかし自分が辞めたら、職場が回っていかないので、辞めることは考えられず、綱渡り状態で働いていると言う。そしてこれらの非正規公務員に共通しているのが、市民と直接接する現場での仕事だという点だ。
増える非正規公務員、4分の3は女性
このクローズアップ現代の報道がなされた同じ月に、ちょうど「福祉行政を考える連続学習会」ⅰ の第3回目が大阪弁護士会館で開催され、「福祉分野公務員の非正規化を考える」というテーマに惹かれ参加した。
講師の西村聖子氏(大阪市家庭児童相談員労働組合委員長)によれば、地方自治体の正規職員数は、2005年に304万人だったのが、2016年には、273万人に減少する一方で、非正規職員は、2005年に45万人だったのが、2016年には、64万人にまで増えたという。地方自治体に働く職員の5分の1近くが、非正規の職員ということになる。そして非正規職員の約4分の3を女性が占めている。まさに非正規公務員問題は女性問題でもある。
西村氏は、非正規公務員増加の理由として、「正規公務員の非正規公務員への置き換え」と「新しい公務分野への対応」をあげる。この新しい公務分野への対応とは、相談業務を必要とする新しい法制定や法改正がなされて、相談員を配置する必要に迫られたことである。消費生活・女性・子ども虐待・不登校・貧困・生活困窮・障害・高齢・自殺対策・ホームレス支援等の課題を対象とする新しい法制定が2000年以降に数多くなされたが、そこで必要となった多くの相談員の業務を、非正規で対応しているという。
「会計年度任用職員制度」で女性は活躍できるか?
昨年、印象に残った本のひとつに『女性のいない民主主義』(岩波新書・前田健太郎著)がある。著者によれば、スウェーデンでは、ケアの社会化が進んでいるが、その背景には、第二次世界大戦後の経済成長期に、女性の労働参加を促進する道を選択したため、公営の保育サービスや社会福祉サービスが拡大し、その分野で多くの女性が雇用されたことがあるという。公営の機関で働く女性労働者が労働組合に組織化されることを通じて、女性の発言力が強まったのである。これとは対照的に、日本では、高度成長期に政府が公務員数の抑制に乗り出したため、公共部門が女性の社会進出を後押しするという現象は起きなかったという。
著者は、今日では、日本の公務員数は、先進国のなかで最低の水準にあり、非正規化も進んでいて、その大半が女性であることを指摘している。日本では、公務労働の場に女性が増えても、非正規であったために、女性の発言力が強まることはなかったのだ。女性差別の解消のために、この非正規公務員問題の解決は避けて通れない課題である。
政府は、女性活躍推進の掛け声のもと、女性地方公務員の活躍推進に向けた取り組みの一環として、2020年4月から「会計年度任用職員制度」を導入するという。しかしこの制度は、労働条件面で正規職員との格差を残したまま、非正規公務員を、会計年度(通例は1年)限りの任用という、さらに弱い立場に追いやるものとの批判がなされている ⅱ 。
「女性活躍」と言いながら、真逆の政策を進める政府への怒りで、今年も幕を開けそうである。
ⅰ 大阪弁護士会・大阪精神保健福祉士協会・大阪医療ソーシャルワーカー協会・大阪社会福祉士会の共催による全5回の連続学習会
ⅱ 自治体問題研究所・坂井雅博著「『会計年度任用職員』導入による公務員制度の大転換」https://www.jichiken.jp/article/0080/