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2021年01月28日
仕事・労働性差別・ジェンダー裁判事例
宮地 光子

非正規労働者の待遇格差是正と最高裁判決  【弁護士 宮地光子】

2019年の国民生活基礎調査によれば、就業者のうち、男性は22.3%、女性は56.4%が非正規労働者である。年代別にみると非正規率の男女格差は、さらに開き、30代から50代くらいまでの非正規率は、男性は10%前後で推移しているのに、女性は40%から60%に及ぶ。まさに非正規問題は女性問題でもある。

 

「賞与・退職金」と「休暇・手当」で分かれた最高裁の判断

 

昨年10月13日と15日の両日、最高裁は、非正規労働者(有期雇用)の待遇格差是正を求める5件の訴訟について、相次いで判決を行った。

13日に出された2件の判決は、非正規労働者の敗訴だったのに対し、15日に出された3件の判決は、非正規労働者の勝訴で、結論は真逆になった。最高裁は、非正規労働者に冷たいのか、優しいのか、いったいどちらなのか疑問に思われた方も多いと思う。

13日に判決が出された大阪医科薬科大学事件では、「賞与」が正職員には支払われるのに、アルバイト職員に支払われないことが、同じく、同日判決の出されたメトロコマース事件では、「退職金」が、正社員には支給されるのに、契約社員には支給されないことが、最高裁で争点になった。

しかし最高裁は、アルバイトに「賞与」を支給しないことも、契約社員に「退職金」を支給しないことも、不合理とまではいえないとした。

他方、同月15日に判決が出されたのは、日本郵政事件(東京、大阪、佐賀の3地裁に提訴した事件)で、最高裁で争点になったのは、「夏期冬期休暇」「年末年始勤務手当」「病気休暇」「年始勤務の期間に対する祝日給」「扶養手当」であった。これらの休暇や手当が、正社員には与えられるのに、契約社員には全く与えられないか、正社員より低条件であった。最高裁は、いずれの休暇および手当についても、契約社員と正社員の労働条件が異なることを違法とした。

 

「賞与」「退職金」の格差の違法が認められなかった理由

 

メトロコマース事件においても、大阪医科薬科大学事件においても、最高裁は、非正規労働者と正社員の職務の内容や変更の範囲には、「一定の相違」があったことと、退職金と賞与の趣旨が、「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図る目的」にあることを主な理由にして、非正規労働者への不支給が「不合理とまでは判断できない」と結論付けた。

しかしメトロコマース事件の最高裁判決には、1名の裁判官(宇賀克也裁判官)の反対意見があり、同裁判官は、正社員と契約社員の職務の内容や変更の範囲について「一定の相違」は存在しても、「大きな相違」はないとしている。

このように最高裁の裁判官の中でも、職務内容をどのように評価するのかについて、異なる見解が存在するのにも関わらず、最高裁の多数意見においては、職務内容に「一定の相違」があることが、格差を不合理でないと判断した理由にされている。しかし、前記のような反対意見が存在することを考慮すると、職務内容の「一定の相違」は後付けの理由で、格差を不合理ではないとした最も大きな理由は、退職金の趣旨が、「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図る目的」にあるとしたからとしか思えない(大阪医科薬科大学事件の賞与の判断についても同様と考えられる)。

正社員として職務を遂行しうる人材かどうかという判断基準は、その判断をするのが企業であり、しかもその基準は企業の主観的なものにならざるを得ないから、このような基準が格差を合理化するものとしてまかり通れば、非正規労働者は、企業が正社員としての職務遂行を期待しない労働者だとして、どのような格差も不合理でないことにされてしまう。

最高裁は、日本郵政事件の「休暇・手当」の待遇格差に対する判断においては、こんな乱暴な論理展開をせずに、休暇や手当のそれぞれの趣旨を判断して、労働条件の格差を違法と判断した。

しかし「賞与・退職金」の待遇格差については、そのような判断がなされなかったのは、なぜだろうか。わが国においては、賞与・退職金の基準となる基本給(賃金)の決定基準自体が、職務ではなく、人的要素に依拠しており、職務に対する判断以上に、企業の裁量の幅が大きいことが原因だと考えられる。

職務評価の手法を確立して、職務を基準にした賃金決定を行い、同一価値労働同一賃金の原則を実現していくことでこそ、非正規労働者の待遇格差が是正されていくのだと思う。

 

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