大阪市の独自方針
新型コロナウイルスの感染拡大が続き、今年の4月にも3回目の緊急事態宣言が発令されました。昨年には、小中高に一斉休校要請が出され、子ども達の生活環境が一変しました。子ども達に対する十分な説明も、学校教育現場における十分な準備もないまま、子どもの学校で学ぶ権利を制限することになり、この一斉休校には様々な批判がありました。
今回の緊急事態宣言発令に際しても、小中高校生の子を持つ方は、また休校になるのかと不安になったことと思います。実際、私の依頼者の方々も調停の合間などにお話をすると、どうなるか不安だとおっしゃっていました。結果、殆どの自治体で一斉休校にはならず、部活動などは休止としつつ、学校は感染防止を徹底し、通常授業を行うこととなりました。
しかし、大阪市においては、4月19日に松井一郎大阪市長が記者会見で「緊急事態宣言中は原則オンラインで授業する」と発表しました。その結果、4月22日、大阪市教育委員会は、市立小中学校に対し、緊急事態宣言中、午前中はオンラインやプリントで自宅学習を行うという方針を通知しました。そして、4月25日に緊急事態宣言が大阪府に発出されたことを受け、翌4月26日から原則「1・2時限目を家庭でICTを活用したオンライン授業、3時限目から登校し、給食を食べ、5・6時限目は家庭で学習」を実施することとなりました。
オンライン授業の実態
私にも小学生の子がいるのですが、4月22日に自宅で子を監護できるかというアンケートが取られ、できない場合は、通常通り学校に登校し、1・2時限目はプリント授業を行う、そして、給食については、自宅で学習している子も合流し、給食をとり、5時限目はプリント授業をして下校するということが通知されました。実際、4月26日から5月21日までこのような状況が続きました。
裁判所は緊急事態宣言下でも通常通り機能しており、事務所も通常通り営業する必要があったため、私の子は毎日学校へ登校していました。驚くべきことは、オンライン授業を行うと言いながら、ずっとプリント授業であったことです。市教委が大阪市立小中の全418校に実施したアンケート結果によると、宣言中の4月26日~5月11日に小中学校の9割以上が双方向通信(接続テストを含む)を実施したものの、子どもが教諭に質問したりする双方向通信で学習活動ができたのは、小学6年で54%、中学3年で50%にとどまり、小中共に学年が下がるほど実施率が下がったということです。インフラが整備されていない中、市長の独断が教育現場に混乱を招き、子どもに適切な学習環境を与えられない結果になったことは明らかです。
校長の勇気ある提言と市長の対応
大阪市立木川南小学校の久保敬校長は、5月17日、市長及び大阪市教育長に対し、オンライン授業により学校現場が混乱し、児童生徒と保護者に大きく負担がかかっていること、教職員は疲弊し、教育の質が低下していることを訴える内容の「提言」を送付しました。「提言」は、多くの人の共感を呼び、SNS等で拡散され、また報道機関によって報道されました。
しかし、市長は、5月20日の会見において、校長の行為について「ルールに従えないなら、組織を出るべきだと思う」などと発言しました。この発言は、言論の自由を侵害するものであり、不当な圧力・介入で、パワー・ハラスメントにも該当するものです。
国連・子どもの権利委員会の新型コロナ感染症(COVID-19)に関する声明においても、「オンライン学習が、すでに存在する不平等を悪化させ、または生徒・教員間の相互交流に置き換わることがないようにすること。オンライン学習は、教室における学習に代わる創造的な手段ではあるが、テクノロジーもしくはインターネットへのアクセスが限られているもしくはまったくない子ども、または親による十分な支援が得られない子どもにとっては、課題を突きつけるものでもある。」と指摘があります。子どもが学びの主体であり、教育を受ける権利(憲法28条・同29条)が保障されなければならないことを忘れてはならないと思います。
「オンライン授業」という響きは、格好がいいので、市長が画期的なコロナ対策を行った雰囲気を出すのに都合が良かったのでしょう。しかし、インフラが整わず内容のない「なんちゃってオンライン授業」は子どもの教育を受ける権利を侵害するものです。オンライン授業を受けられた児童もいるようですが、学校間の格差が相当あったようです。また、家庭にWi-Fi環境がない方もいたのではないでしょうか。