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2021年01月28日
DV性被害・セクハラ仕事・労働性差別・ジェンダー

リレーエッセイ No.39 『婦人保護事業の限界と女性支援法への期待』   -お茶の水女子大学 名誉教授 戒能 民江-

婦人保護事業の社会的認知度は低い。最近、マスメディアでも取り上げられるようになったものの、記者ですら、婦人保護事業の一機関である「婦人保護施設」を、DVなどの被害を受けた女性の「避難所」を意味する「保護施設」一般と混同することがある。

DV問題に取り組み始めた1990年代、私の婦人保護事業へのイメージは暗いものであった。DVと婦人保護事業を切り離して考えていた当時の自分の認識の浅さを省みると、女性の現実と社会的背景を伝える努力の大切さを痛感する。

 

2019年10月、厚生労働省「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」は、1年余にわたる審議の結果を「中間まとめ」として公表した。1956年創設の婦人保護事業の抜本的見直しがようやく行われることとなった。上記「中間まとめ」は、多様化し複雑化する女性の支援ニーズへの婦人保護事業の対応には限界があるとして、新たな女性支援制度の必要性を指摘した。何といっても画期的なことは、売春防止法第4章「保護更生」の廃止と女性支援のための「新たな枠組みの構築」に「急ぎ、取り組むべき」としたことである。婦人保護事業が売春防止法の軛から解放され、いよいよ新たな女性支援法制定に向けて動き出すのかと期待が膨らんだ。

ところが、2020年2月になっても国会議員の動向が伝わってこない。それどころか、新型コロナウィルス感染拡大による「自粛」で、すべての行事や企画が中止に追い込まれた。今後の見通しがすぐには立たないとしても、婦人保護事業の歴史を紐解く中で見直すべき課題と新たな女性支援の枠組みについて整理することこそ、空いた時間にやるべきだと考え、共著者の堀千鶴子さんとともに『婦人保護事業から女性支援法へ——困難に直面する女性を支える』(信山社新書)の執筆にとりかかった。

本書の執筆に向かわせた動機はそれだけではない。2001年のDV防止法制定がそうであったように、今回の婦人保護事業の見直しと新法制定要求を推し進めたのは現場で支援に携わる人たちであった。中でも「婦人保護施設」が立法運動を中心的に担ったことの意義は大きい。本書には、今回の立法運動を記録として残したいと心に決めた。

 

DVは比較的身近であり、社会が取り組むべき課題であるという共通認識を得やすいのに対して、売春防止法を根拠法とする婦人保護事業見直しの必要性への理解を求めるのは、そう容易ではない。歴史的経緯から言えば、婦人保護施設は売春防止法の中核的施設である。それだけ、社会からの風あたりは強い。それだからだろうか、利用の減少がとどまらないにもかかわらず、国も自治体も対策に消極的である。家から逃れてきた若年女性が性産業に取り込まれないように、民間団体が必死で「保護」したとしても、次の支援につなぐことが難しい。支援の経験が豊かで専門性にも富みながら「空いている」婦人保護施設を使えないという矛盾を何とか解決しなければならない。このように、現行婦人保護事業による支援には限界がありすぎて、女性たちの支援ニーズに応えられないことが婦人保護事業の現場にとって大きな悩みである。

 

厚生労働省検討会「中間まとめ」では、第4章の廃止にとどまらず、売春防止法そのものの見直しについても言及している。本書では売春防止法全体まで射程に入れることはできなかったが、不十分ながら、売春防止法が法的根拠であることにより生じる婦人保護事業の問題点について検討した。一つは、特別刑法である売春防止法と婦人保護事業の矛盾であり、具体的には、今も残る婦人補導院と補導処分について論じた。二つ目は行政行為としての支援(「保護更生」)にもっとも欠けている自由権の保障と権利擁護(アドボカシー)の重要性を指摘した。

売春防止法を根拠とした婦人保護事業には「支援」概念が欠落している。女性たちが支援を選択できるようなしくみや施設のあり方を規定する具体的な支援法の制定を期待する声が支援の現場から上がっている。

 

コロナ禍で格差拡大が進み、DVや子ども虐待、性暴力被害の深刻化が危惧される。必要としている女性に必要な支援が届き、権利として支援が受けられるように、困難に直面するあらゆる女性を支えるための「女性支援法」の一日も早い制定を望む。

 

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