「カンチョー放置」は性的虐待
DVが背景にある離婚事件の依頼者の方から、「夫はどうして、あんな風になってしまったのでしょうか。生育歴に問題があるのでしょうか。」とDVの原因について問われることがあります。また、子ども(特に男の子)を持つ依頼者の方からは、「お父さんのようになってほしくないけれど、どうしたらいいでしょうか。」「DVは連鎖するのでしょうか。」と聞かれることがあります。
私自身、子育てをする中、男の子はどのようにして有害な男らしさを身につけるのか考えさせられることがあります。先日、子どもがテレビで「パーマン」(藤子・F・不二雄による昭和のアニメ)を観ていたのですが、主人公(ミツ夫)の母親がコピーロボットを見て「まあ、ミツ夫さんたら、女の子みたいにお人形なんかもって!」と愚痴を言っているシーンがあり、テレビを消したくなりました。子どもを「らしさ」から解放したいと思っている方も多いのではないでしょうか。
昨年8月に『これからの男の子たちへ―「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大槻書店)が発売されることを知った際は、予約をして購入しました。この本の著者は、12歳、8歳の二人の男の子の母で弁護士の太田啓子さんです。前半では、「カンチョー放置問題」(カンチョーが性的虐待であるのに、「悪ふざけ」として許容されていることについての問題提起)、「セックスの人数と『モテ』を混同するカンチガイ」(相手を尊重し、対等な関係に立ってコミュニケーションをとることの重要性の指摘)など、男性にかかるジェンダーバイアスや社会の圧力などについて分かりやすく解説されています。
一緒にたたかってくれる男性を増やしたい
後半では、男の子のための性教育について言及されています。本の中でも指摘されていますが、日本では学習要領で「性交」に関する取扱いがありません。私が、以前小学校の先生から聞いた話ですと、理科の授業で人の生命の誕生について教えなければならないが「性交」については教えてはならないので、生徒が、「どうして母体内に赤ちゃんができるのか」と質問した場合には答えを濁すということでした。教員の方の創意工夫で、中学生に性交や避妊などについて教育をしている学校はあるようですが、自主的なものです。
そうすると子どもたちはメディアや友達の噂話を通じて、性に関する知識を得ることになりますが、アダルトコンテンツで描かれている性行為は男性目線のファンタジーの世界です。それをそのまま女性に実行してしまうと、女性の心身を傷つける可能性があります。本書では、ポルノを見るときに気をつけてほしいことや性的関係の同意について書かれています。
書籍を読み終えて、親が正しい知識をもち、性をタブー視せず、子どもとコミュニケーションを取りながら、一緒に考えていくことが大切であると思いました。小さい子どもの場合は、絵本(例えば『いいタッチ悪いタッチ(だいじょうぶの絵本)』安藤由紀著、復刊ドットコム、2016年)を使って話をするのが良いと思います。
太田さんは、最後に「わが子を差別的な男性にさせないこと」と同時に、「性差別や性暴力に怒り、一緒にたたかってくれる男性をもっと増やすこと」を考えてこの本を書いたと締めくくっておられます。私も性差別や性暴力と戦う弁護士として、一緒にたたかってくれる男性を増やすという思いで性教育の問題に取り組んでいきたいです。