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2021年08月26日
性被害・セクハラ平和・人権世界の女性
雪田 樹理

性的同意とは何か ~「真摯かつ任意の承諾」を求めた判決~  【弁護士 雪田樹理】

不同意性交等罪の導入を! 署名が7万近くも

 

昨年夏号で紹介した「性犯罪に関する刑事法検討会」が、この5月に「とりまとめ報告」を発表しましたが、私達が求める不同意性交等罪の導入にはまだ道のりが長いようです(※)

2017年の刑法改正で棚上げにされた刑法177条の「暴行・脅迫」要件(=強制性交等罪の成立には「暴行・脅迫」が必要とされ、その程度は判例によって「相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度」とされている)の撤廃等の法改正を目指して、当事者や支援者の市民運動が広がり、不同意性交等罪の導入を求める署名が7万近く集まるなど、この日本でも、諸外国が採り入れているNo Means NoやYes Means Yesの法制度を採用して、同意のない性的行為は犯罪とすべきという世論が高まっています。

本年4月、ある民事裁判で、このような社会的な動向が影響したのではないかと思われる判決を勝ち取ることができました。

被害女性が生きがいにしていた趣味の教室の代表者である指導者が、性的関係を強要し、その関係が長期間、断続的に繰り返された、指導者という立場を利用した地位関係性による性暴力の事案です。

 

「性的意思決定の自由等の人格権侵害にあたる」

 

判決は、第1に、他の男性(生徒)とともに3人で飲食をした後、加害男性がその男性を先に帰らせ、被害女性をバーに誘って飲酒し、その帰路にホテルに引きずりこもうとして抵抗され、その後日以降も繰り返し女性を誘い、断り続ける女性に深夜にLINEで2時間以上にもわたって宿泊先のホテルに来るよう執拗に求め、根負けした女性が「飲酒するだけなら」と応じたところ、飲酒の途中から記憶がなくなり、気づいた時には加害男性の宿泊先ホテルで性交渉をしていた事実に関して、「同意の上だった」とする加害男性の主張を排斥して、「被告において、原告の承諾を取得したことを認めるに足りる証拠は特にないから、原告の性的意思決定の自由等の人格権侵害をしたと認められる」と判断しました。

第2に、その後も断続的に繰り返された性的関係について、様々な事実関係を指摘したうえで、「原告は、被告との性交渉や交際には総じて嫌悪していたといえるところ、被告は、原告の指導者等という地位に乗じて性交渉をし、性的関係の維持・継続を求めたものと解され、これは原告の性的意思決定の自由等の人格権侵害にあたる」としました。

加害男性は、女性が性行為の際に加害男性から2万から5万円の金銭を受領していたこと、また性的関係を楽しめたと受け止められるLINEメッセージを送信していたことから、同意をしていたと主張しましたが、判決は、金銭の交付について、「原告から自発的に金銭のために性交渉を持とうと被告に持ち掛けた言動は見当たらない」、「値段を一層高額にしていることから」(女性は何度拒否してもその意思がまったく通じない加害男性に対し、誘いを回避するために妻子のことを持ち出すなど様々な試みをし、その試みの中の一つが渡される金額を釣り上げることでした)、「金額交付は、原告の同意を裏付ける証拠というよりは、原告において、被告からの性交渉の要求を牽制するための意味合いが強いと推認することができる」とし、また、被告との性的関係を楽しめたと受け止められるメッセージについては、その時期が、指導者であった加害男性を怒らせずに穏便に解決しようとしていた対応から、加害男性のLINEやFace bookをブロックして強い手段を講じた以後のことであり、金額も高額化していた時期であることから、「被告の機嫌取りとしてされたものと解するのが相当であり、真摯かつ任意の承諾の事実を裏付けるものとはいえない」と断じました。また判決は、括弧書きで「一見、原告が承諾していて、男女交際の外形を有していたと解することができるとしても、同様のことを指摘することができる」と付記しました。

 

国連の立法モデルに通じる判決内容

 

いわゆる地位関係性のもとで性的関係を強要させられていた事案では、加害者からは同意があったと主張されることが多く、本件のように外形的には同意と受け取られる被害者のメール等の証拠が残っていることもよくあり(権力関係を背景とした「迎合メール」)、加えて本件では、性交渉の都度、加害男性から金銭が交付されていたことがどのように評価されるのかと注目していましたが、裁判官はきっぱりと「真摯かつ任意の承諾の裏付けとはいえない」としました。

このように裁判所は、性的同意に関して、加害男性に対して積極的に承諾の取得を求め、かつ、その承諾は真摯かつ任意であることを求め、性的意思決定の自由の侵害を人格権の侵害として違法性を認めました。

この判決が示した性的同意に関する考え方は、No Means Noを超え、行為者に対して相手から性行為に関する同意を得ることを求め、かつ、その同意の意思決定は真摯かつ任意に行われるべきというもので(本件は指導者という地位を利用した事案であり、裏返せば真摯かつ任意の同意には対等な関係性が要求される)、民事とはいえ、自発的に参加していない者との性交をレイプ罪とするスウェーデンのYes Means Yes型に類するといえるのではないでしょうか。これは「明確で自発的な合意」を求める国連が示している立法モデルにも通じるものです。

私達が求める刑法改正までの道のりはまだまだですが、民事とはいえ、このような判決を得ることができて、将来への希望の光を垣間見た思いがしました。この判決を切り開いた被害女性の闘いに心から敬意を表します。

 

(※) ヒューマンライツ・ナウの「被害の実態に沿った法改正という原点はどこへいったのか? 性犯罪に関する刑事法検討会の取りまとめにあたって」をご参照下さい(https://hrn.or.jp/hokoku/19925/)。

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