今年6月、男性の育児休業取得を促進することを目的として、育児・介護休業法が改正されました。
1 改正の概要
第一に、男性が育児休業を取りやすくするため、子の出生直後における男性の育児休業制度が新設されました。子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができるとするものです。
第二に、新しい制度と現行育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の措置(研修、相談窓口設置等)を事業主に義務付けました。また、労働者又は配偶者が妊娠又は出産した旨等の申出をしたときに、事業主に対し、当該労働者に対し新制度及び現行の育児休業制度等を周知するとともに、これらの制度の取得意向を確認するための措置を義務付けました。
第三に、分割して取得できる回数を2回としました。保育所に入所できない等の理由によって1歳以降に延長する場合について、開始日を柔軟化することで、各期間途中でも夫婦交代を可能(途中から取得可能)とするものです。
第四に、従業員1000人超の企業を対象に、育児休業の取得状況について公表を義務付けました。
第五は、有期雇用労働者の育児休業及び介護休業の取得要件のうち「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」であることという要件を廃止し、有期雇用労働者について取得要件を若干緩和しました。
2 男性の育休取得率が極端に低い日本
日本の育児休業取得率は、2019年度で女性が83%に対し、男性は7.48%と、男性の取得率が今なお極端に低いことが特徴です。政府は、2020年に男性の取得率を13%に、2025年には30%にすることを目標にしていますが、現状では全く届いていません。法改正がいくら進んでも、取得しやすい企業風土や職場環境がなければ取得率は上がらないでしょう。
私は、企業社会の中に、育休を取ることによるプラス面がもっと認知されると良いと思っています。どんなプラス面があるのかを科学的エビデンスに基づいて説いた記事を見つけました。大阪弁護士会発行の月刊誌5月号に掲載された、京都大学大学院教育学研究科の明和政子教授のお話です。明和教授は、京都大学霊長類研究所で、チンパンジーの心に関する研究を長年行い、ヒトという動物だけがもつ脳と心の働きを解明する「比較認知発達科学」を開拓してきた研究者です。
いわく、子育ては、実は、予測が難しい様々な問題に対してイマジネーションを豊かに働かせながら解決法を推論する、きわめて高度な作業であり、「休暇」でも「勤務先での競争からの脱落」でもない、「未知のものに対するイメージや判断力が常に求められる、最高の修練期間」であると。そして、育児経験は、男性・女性ともに親の脳の前頭前野の強さに深くかかわっており、育休を取った(育児経験を豊かに得た)人は、取らなかった(育児経験が乏しい)人に比べて仕事のパフォーマンス効率が良いという報告もあるそうです。
女性だからといって、子どもを産むと親性(親として必要な脳と心の動き)のスイッチが自動的にオンになるわけではなく、性差を問わず、幼少期からの経験や産後に自分の子どもを世話する等の経験によって、子育てに適応的な脳のネットワークが形成されていくという科学的エビデンスがあり、それをもっと社会に理解してもらう必要がある、との指摘もありました。
育児休業法が男性も取得しやすいように改正され社会に広く周知されることはもちろん大切ですが、私は、その前に、特に労働法の分野では、法律のややこしい言い回しをもっとわかりやすくして広報する必要があると思います。そして、労働法制が整備されることと合わせて、明和教授のお話にもあるような、脳科学をはじめとする研究結果や科学的エビデンスをもとに、少子化対策や子育て施策が国や地方自治体で練られていくことを強く望みます。