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2021年08月26日
性被害・セクハラ仕事・労働
乘井 弥生

解決事案の紹介 「セクハラ被害で出社できなくなったら…」  【弁護士 乘井弥生】

■ はじめに

 

世の中で「セクハラ」という言葉が広く認知されてきた現在においても、「セクハラ被害」はなかなか無くなりません。そして、会社内に相談対応窓口が設置されても、実際に被害申告がなされたとき、会社がきちんとした対応をしないこともしばしばあります。

昨年末に解決した事案で、慰謝料や逸失利益だけではなく、セクハラ被害に遭ってから退職するまでの間の出社できなかった期間の賃金請求権について、裁判所で認定された裁判例がありますので紹介します(大阪地裁R2.2.21判決、「労働判例2021.2.15 №1233」)。

 

■ 事案の概要

 

原告の二人は、提訴時20代の女性で、別々の時期に被告会社に採用され従業員となりましたが、いずれも、会社の創業者の男性からセクハラ被害を受け、退職を余儀なくされました。

そのうちの一人である原告のXさんは、就職から約半年後に創業者から海外出張への同行を言われ従うのですが、タクシーでの移動中、「どうや、愛人になるか」「君が首を縦に振れば、全部が手に入る。全部、君次第」などとセクハラ発言を受けます。さらに到着したホテルでのチェックイン時、入室できる部屋が一部屋しかないことを知り、ホテルの一室での同室を余儀なくされる事態となり、創業者がシャワーを浴びている間に部屋から逃げて、ひとり帰国したという事案でした。Xさんは帰国後出社できなくなり、まもなく弁護士に相談に来ました。受任後、私は、すぐに会社と加害者に対して、抗議の意思表明をするとともに、セクハラの社内調査、再発防止措置、謝罪、セクハラのない職場であることが確認され出社できるまでの間の給与支払等を求める通知文を送付しました。

ところが、会社は、この被害申告に対し、社内調査や出社確保のための方策を全く採らず、Xさんが出社しないことを理由に給与の支払を止めたのです。

賃金とは労働の提供に対する対価ですから、仕事をしなければ賃金請求権は発生しないのが原則です。しかし、仕事をすることができないことが「使用者の責めに帰すべき事由」による場合は事情が異なってきます。この論点について、大阪地裁は、次のとおり述べてXさんの請求を認めました。

・「被告会社は、Xからのセクハラ被害申告に対し、使用者として採るべき事実関係の調査や出社確保のための方策を怠ったものであり、そのために、Xは、退職に至るまでの間、被告会社において就労することができなかったと認められる。」

・「そうすると、Xが被告会社において労務提供できなかったのは、使用者である被告会社の責めに帰すべき事由によるものであるから、Xは、ローマ出張からの帰国以降、退職までの間における不就労期間についても賃金請求権を失わない。」

 

■ 精神疾患発症の主張は必ずしも不可欠ではないこと

 

実は、セクハラ被害に遭ったあと、被害者に不眠、神経過敏、うつ病等の精神的・身体的症状が発生して就労できなくなり、その不就労期間の賃金請求をおこない、これに対して裁判所の判断がなされる事案は多くあります。私が以前ニュースレターで紹介をしたことがある大手消費者金融会社を相手としたセクハラ裁判も、原告の女性に不眠や抑うつ気分といった心身の不調が出て、退職までの賃金請求を求めた事案でした(京都地裁H18.4.27判決、「労働判例2006.11.1 №920」)。

ところで、本件の原告Xさんに精神科や心療内科の通院が必要となる精神疾患の発症はなく、裁判所でもそのような主張はしませんでした。

今回の大阪地裁判決は、セクハラにより精神疾患を発症して働けなくなったという関係がない中、会社がセクハラ被害に対して適切な対応を怠ったという措置義務違反により出社できなくなったことを理由に不就労期間中の賃金請求権が認められたことに特徴があるといえます。

精神疾患を発症するまでには至っていなかったとしても、セクハラの被害申告をしたにもかかわらず、会社が適切な措置を取らず「加害者を守る」姿勢を続けるという状況は、被害者にとって、「針の筵」ともいえる強度のストレス状態を強いているのと同じです。そのようなケースについても、不就労中の賃金請求が認められた裁判例として意味があったといえます(なお、本件は双方が控訴し大阪高裁で和解により解決しました)。

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