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2022年01月17日
仕事・労働性差別・ジェンダー
宮地 光子

日本国憲法と「企業の経済活動の自由」  【弁護士 宮地光子】

相澤美智子教授の鋭い批判

 

昨年11月、WWN(ワーキング・ウィメンズ・ネットワーク)の第26回総会が開催された。WWNは、1995年に、住友メーカー3社(住友金属・住友電工・住友化学)の女性たち9名が、企業の男女賃金差別を憲法14条に違反するとして提訴したことを契機に結成された。

私は、住友メーカー3社の男女賃金差別裁判の弁護団の一員であったことから、WWNの結成に関わり、その後もWWNが支援する裁判を担当してきたことから、WWNの活動に多くのことを学ばせてもらった。

昨年11月の第26回総会では、相澤美智子教授(一橋大学大学院法学研究科)から「日本国憲法は『労働』をどう見ているのか?」と題する講演をしていただいた。相澤教授は、昨年3月に岩波書店から「労働・自由・尊厳―人間のための労働法を求めて」と題する大著を刊行された。相澤教授は、「はしがき」で次のように、この大著の核心を述べておられる。

「わが国の憲法は、そもそも労働者の尊厳を脅かすような資本家(使用者)の経済的自由を憲法上の自由ないし権利としては承認しておらず、またそのような大資本の財産権を『公共の福祉』という観点から強く制約するものである。このように保障される『労働の権利』=『勤労の権利』こそ、資本主義社会において労働の疎外に直面している労働者にとって不可欠なものであり、労働法とは、こうした『労働の権利』=『勤労の権利』を具体化するものとして存在すべきものである。」

WWNでの講演では、相澤教授がこのような確信に至られた理由を、日本国憲法制定の歴史的経緯から、かみ砕いてお話しいただいたのだが、この「日本国憲法は、資本家(使用者)の経済的自由を憲法上の自由ないし権利としては承認していない」という相澤教授の説は、日本の憲法学や判例の通説への鋭い批判である。

 

労働者の権利との調和を図ろうとする誤り

 

2000年7月31日に、住友電工事件について判決がだされたが、判決は、住友電工の男女別雇用管理を憲法14条の趣旨に反すると断じながら、「企業にも憲法の経済活動の自由(憲法22条)や財産権保障(憲法29条)に根拠づけられる採用の自由が認められるのであるから、不合理な差別に該当するか否かの判断に当たって、これらの諸権利間の調和が図られなければならない。」と、企業の経済的活動や採用の自由も、憲法上の権利であると断じた。そのうえで判決は、昭和40年代ごろは、男子は経済的に家庭を支え、女子は結婚して家庭に入り、家事育児に専念するという役割分担意識の強かったことや女子の勤続年数の短かったことを認定し、「被告会社としては、その当時の社会意識や女子の一般的な勤続年数等を前提にして最も効率のよい労務管理を行わざるをえないのであるから、前記認定のような判断から高卒女性を定型的補助的業務のみに従事する社員として位置付けたことをもって、公序良俗違反であるとすることはできない。」と判断した。

しかし相澤教授の説に立てば「日本国憲法は、資本家(使用者)の経済的自由を憲法上の自由ないし権利としては承認していない」のであるから、そもそも労働者の憲法14条の平等取扱いを要求する権利と、企業の営業の自由や採用の自由を、同じ土俵の上にのせて、その調和を図ろうとする発想自体が誤っていることになる。

企業による男女の賃金差別は、男女別雇用管理によるものから、人事考課によるものへとシフトしてきているが、この人事考課による男女賃金差別事件では、企業の人事考課による男女賃金格差を、企業の裁量権の範囲内として違法性を認めない裁判所の判断が相次いでいる。しかし企業の経済的自由が憲法上の権利としては認められていないのであれば、賃金における著しい男女間格差をもたらし、憲法14条に違反する状態を生じさせているような人事考課を、企業の裁量権の範囲内として合理化することは、およそ不合理なことである。

日本国憲法制定の歴史的経緯を丹念に紐解くことによって到達された相澤教授の説が、憲法学や判例の通説になるような時代が、いつか来ることを願わずにはおれない。

 

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