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2022年07月29日
面会・養育費裁判事例
宮地 光子

「面会交流原則実施論」見直しの動きについて  【弁護士 宮地 光子】

新たな運営モデル

離婚事件を担当していて、離婚そのものは解決したのに、面会交流だけが解決できずに、家裁の審判を経て、さらには抗告審まで紛争が持ち込まれることが少なくない。

そして面会交流事件の解決を困難にしてきたのが、裁判所の「面会交流原則実施論」とも言うべき実務の方針である。この実務の方針は、「別居親と子との面会交流は、基本的に子の健全な育成に有益なものであり、その実施によりかえって子の福祉が害されるおそれがあるといえる特段の事情がある場合を除き、面会交流を認めるべきである。」というもので、平成24年の東京家裁の裁判官らによる論文(注i) が、この方針の普及に影響を与えたとされている。

しかし「子の福祉が害されるおそれがあるといえる特段の事情」が極めて限定的に運用されてきたので、夫のDVが原因で離婚に至った高葛藤の事案や、子どもが父との面会を拒んでいるような場合でも、面会交流を命ずる審判がなされることが少なくなかった。当事務所のニュースレターでも、過去3回にわたり、この面会交流原則実施論の問題点やその弊害ともいうべき案件に言及している(注ii)。また弁護士や研究者による批判の論文や書籍も相次いで発行されてきた(注iii)

このような批判を受けてか、令和2年6月、東京家裁の裁判官らによる新たな論文(注iv)が公表され、そこでは「平成24年論考の趣旨が誤解されて『原則実施論』として独り歩きし,一部に,『禁止・制限すべき事由が認められない限り』又は『特段の事情が認められない限り』必ず直接交流を実施しなければならないとの方向で調停運営が行われ,その結果,同居親に対する十分な配慮を欠いた調停運営が行われたことがあったようであり,批判がされてきた。その後調停実務の現場においては,前記のような調停運営の行き過ぎに歯止めを掛けようとの動きが見られるようになっている。」として、面会交流事件の新たな運営モデルが提案された。

また令和2年7月には、家庭裁判所の調査官の研究員による「子の利益に資する面会交流に向けた調査実務の研究」(注v)が公表され、その中で「面会交流事案における調査実務の指針」が明らかにされたが、その冒頭にあげられていることは、「①  面会交流及びそれをめぐる紛争の解決過程を,父母間又は親子間の支配的・暴力的な関係が生じる機会にさせないようにし,それにより,親子の身体的・心理的な安全を確保する。」である。この研究も、親子の身体的・心理的な安全を確保することを面会交流事案における最優先課題としている点で、これまでの「面会交流原則実施論」とは異なる視点をもつものである。

当然のことが認知される流れに

このような裁判所の動きを反映してか、先日、妻が夫のDVが原因で別居・離婚し、別居後も夫に対して強い恐怖心を抱き、うつ病を発症している事案で、子ども(保育園児)と元夫の直接交流を認めず、年1回の写真の送付のみを命ずる審判を得た。

元夫は、抗告し、抗告審で、「父母の葛藤が激しい事案であっても、そのことから直ちに面接交渉を否定するのではなく、子の健全育成に非監護親の関わりが必要であるとの認識のもとにできる限り面会交流を認めることが大事であるから、本件においても抗告人と子らの直接交流を認めるべきである」と主張したが、大阪高裁は、「面会交流をすることこそが、子の利益になるとする考え方は旧来の考え方であり、現在は、面会交流が親子関係を醸成するものであることは認めながらも、父母間の葛藤が激しく、非監護親と子との直接交流を認めることが子の利益を害すると考えられる場合に、直接交流の実施が相当でない場合があることが広く認められており、本件もこれに該当するものといえる。」として抗告を棄却した。

やっと、面会交流事件において、子を監護している親の心身の安全を確保することこそが、子の利益につながるという当然のことが認知されるようになってきたのだと思う。この流れが定着してくれることを願うばかりである。


i 「面会交流が争点となる調停事件の実情及び審理の在り方-民法766条の改正を踏まえて-」(家庭裁判月報64巻7号1頁以下)2012年7月

ii 「面会交流と子どもの意思」宮地光子・2013年1月号

「面会交流原則実施論について考える」髙坂明奈・2016年1月号

「面会交流と『子の福祉』」角崎恭子・2017年7月号

iii ・梶村太市・長谷川京子編『子ども中心の面会交流』(日本加除出版)2015年4月

・梶村太市・長谷川京子・吉田容子編『離婚後の子どもをどう守るか』(日本評論社)2020年3月

iv   「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」家庭の法と裁判2020年6月号

v 家裁調査官研究紀要27号(令和2年7月20日発行)

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