売春防止法「婦人保護事業」の抜本的改革へ
今年5月、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(略称「女性支援法」)が成立しました。
女性たちは、DVや性虐待など家族からの暴力、性暴力、性的搾取、離婚、貧困、心身の疾患や障害、居場所の喪失、社会的孤立、予期しない妊娠・中絶・出産、孤立した子育てなど様々な困難を抱えています。このような困難を抱える女性たちを支援する仕組みがこの法律によって作られることになります。
この法律は、売春防止法の婦人保護事業に携わっている女性たちが中心となって長年にわたって求めてきたもので、1956年に制定された売春防止法に基づく「婦人保護事業」が抜本的に改革される第一歩となります。
売春防止法の問題とは
売春防止法は、戦後まもなく貧困のために売春せざるを得なかった女性たちの転落防止と更生保護を目的に、売春する女性を処罰し(買う側は処罰されない)、「性行又は環境に照らして売春を行うおそれのある女子」に対して、その刑を執行猶予とするときは「補導処分」に付して「婦人補導院」に収容することができ、また売春するおそれのある女子を「要保護女子」とし、「更生」すべき対象としています。売春する女性を「転落」とみなし、処罰、更生の対象とするもので、極めて差別的な法律です。
また、売春防止法第4章は、要保護女子の保護更生を担う婦人保護事業として、婦人相談所、婦人相談員、婦人保護施設の3つを規定していますが、2001年に制定されたDV防止法によって、被害者支援の中心となる「配偶者暴力相談支援センター」の機能を、「都道府県が設置する婦人相談所その他の適切な施設」に担わせるとされて以降、DV防止法に基づく被害者の保護が中心的な業務となり(ストーカー、人身取引、性暴力等の被害者保護も同様)、本来の更生保護やDV以外の事情で困難を抱えている女性に対する支援は周縁に追いやられたままとなっていました。
女性支援法とは
さて、「女性支援法」は、売春防止法の「補導処分」(第3章)や「保護更生」(第4章)を廃止し、その目的を「女性が日常生活又は社会生活を営むに当たり、女性であることにより様々な困難な問題に直面することが多いことに鑑み」、「困難な問題を抱える女性の福祉の増進を図るため」、「困難な問題を抱える女性への支援のための施策を推進し」、「人権が尊重され、女性が安心して、かつ自立して暮らせる社会の実現に寄与する」こととしています。
「困難な問題を抱える女性」とは、「性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性その他の様々な事情により日常生活または社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱える女性(そのおそれのある女性を含む)」としています。
基本理念として、①当事者の意思の尊重、②発見、相談、心身の健康の回復のための援助、自立して生活するための援助等の多様な支援を包括的に提供する体制の整備、③関係機関や民間団体との協働、④切れ目のない支援の実施、⑤人権の擁護や男女平等の実現を掲げています。
そして、厚生労働大臣が施策に関する基本方針を定め、都道府県はその基本方針に即して基本計画を定めることになります(市町村は努力義務)。
都道府県は「女性相談支援センター」を設置し、女性の立場に立って相談に応じるという専門的技術に基づいて必要な援助を行う女性相談支援員を置き、さらに女性自立支援施設を設置することができるとされています。
また、地方公共団体は、単独でまたは共同して、困難な問題を抱える女性への支援を適切かつ円滑に行うため、関係機関や民間団体その他の関係者によって構成される「支援調整会議」を組織するよう努めるものとされています。
今後の課題
女性支援法の制定により、売春防止法の差別的な理念を抜本的に変えることができたという意義はありますが、困難を抱える女性にとって実効性のある法律になるかどうかは今後の取り組みにかかっています。2年後の令和6年4月の施行までに、国をはじめ各都道府県や各市町村で実効性のある基本計画や施策を作ること、女性支援相談員の市町村への配置を含む体制を整え、予算を組むことなど課題は多く、これからがまさに正念場です。