menumenu
電話アイコン

06-6947-1201

受付時間 平日9:30~17:30

お問い合わせ・ご予約はこちら

ニュースレター

2023年02月03日
仕事・労働性差別・ジェンダー本の紹介
宮地 光子

書評 浅倉むつ子著『新しい労働世界とジェンダー平等』 【弁護士 宮地 光子】

コロナ禍で浮上した事実

DV事件を担当していると、家庭責任を抱えたシングルマザーであっても、自立し子どもを養っていけるだけの賃金が得られる社会を実現することこそが、DV被害を予防し、その拡大を防ぐために必要だと痛感する。しかし日本の現状は、そのような社会の実現には程遠く、むしろ悪化していっている。

それはいったいなぜなのか、解決策をどのように考えるべきかを、指し示してくれる好著が、浅倉むつ子早稲田大学名誉教授による『新しい労働世界とジェンダー平等』(かもがわ出版・2022年9月)である。

著者は、第一章「コロナ禍の生活の変化」で、コロナ禍で浮上した事実として、数々のデータを分析したうえ、以下の5点を指摘している。

「①雇用と貧困問題の中心にいるのは、非正規で働く女性労働者であり、母子世帯に被害が集中していること、②法的には、時給制で働く非正規労働者に対する、シフトの削減による収入減が新たな問題になっていること、③ケア・ワーカーの処遇問題が大きな社会問題であること、④増大した家庭内ケアワークと仕事の両立問題が難航していること、⑤DVや性犯罪被害など、私生活上の困難が増大していること」

第三章「エッセンシャル・ワーカーの困難」では、医療や看護、介護、保育などで働く人々のコロナ禍における過酷な労働実態と、その困難をもたらした公務員削減問題に言及している。また医療・介護・保育の分野における「公定価格」制度の問題点が指摘され、ホームヘルパーによる国家賠償請求訴訟が紹介されている。同訴訟は、介護保険制度に基づく介護報酬のあり方が、事業所に労働基準法違反を生じさせずにはおかない仕組みであることを問題としている。この訴訟の背景には、事業所や介護労働者の人件費のために介護報酬を引き上げれば、利用者の負担も保険料も増大し、介護サービス利用の手控えがいっそう進むという現実があると著者は指摘する。

ジェンダー格差を解消できない日本の司法

第二章「労働分野のジェンダー格差と『ケアレス・マン』モデル」では、男女賃金格差の二大要因を、一つは男性に比べて女性の勤続年数が短いこと、もう一つは、女性が管理職に昇進できないこととし、この二つの要因をもたらす原因をさらに分析している。

そこでは裁判において、昇進・昇格の男女差別を認定させることの困難さが指摘され、具体例として、私の担当した中国電力事件の判決(注i)の不当性が紹介されている。判決の結論は報われなかったが、著者によって、このように紹介されることで、日本の司法の問題点を明らかにすることに役立ったと思えることは救いである。

上記の第二章のタイトルにある「ケアレス・マン」とは、家族のケア(育児や介護)に責任をもたず、自己の時間をいつでも会社に捧げることができる労働者イコール正社員のことであるが、著者は、日本の裁判の判例法理は、このような正社員像を理論的に支えてきたとして、時間外労働の義務に関する日立製作所武蔵工場事件の最高裁判決(注ii)や配置転換に関する東亜ペイント事件の最高裁判決(注iii)を紹介している。

日本の司法が、労働分野のジェンダー格差を解消しえない一因になっていることがわかる。

日本のジェンダー平等を国際基準に

第四章「ジェンダー平等に関わる労働法制の展開」において著者は、労働におけるジェンダー平等関連の法改正をみてみると、実に頻繁に改正を繰り返してきたことがわかると同時に、改正が小手先だけの対応や、その場限りの場当たり的な対応になっていると批判する(第六章「暴力とハラスメントのない世界を」で、著者が指摘するハラスメントについての日本の法制度も、その最たるものだろう)。

第五章「時間と賃金の新しい考え方―『ケアレス・マン』モデルからの脱却」において著者は、生活時間を確保するという観点からの労働時間規制を行うことの必要性を指摘する。また非正規労働をめぐる賃金格差や男女賃金格差を抜本的に解消するため、ILO100号条約に基づく「同一価値労働同一賃金原則の遵守」を明記し、客観的で公平な「職務評価」によって格差の合理性を判断する法改正を具体的に提案している。

最終章の第七章「日本のジェンダー平等を国際基準に」では、女性差別撤廃条約を批准しながら、個人通報制度を定めた選択議定書を批准しない日本政府を「『法律は作るけれど守るつもりはない』と公言しているようなもの」と批判し、個人通報制度を導入する最大の意義は、日本の司法を変えることだと指摘する。

労働におけるジェンダー平等に関わる論点が網羅されながら、180頁というコンパクトな分量に分かりやすくまとめられている。しかもそれぞれの論点の重要な論文が引用されているので、より詳細に知りたい場合の参考文献への案内書にもなっている。労働におけるジェンダー平等を考える際には、たえず羅針盤としたい一冊である。


i        2013年夏のニュースレターに掲載

ii       最高裁平成3年11月28日判決・労働判例594号7頁

iii   最高裁昭和61年7月14日判決・労働判例477号6頁

 

Contact Us

お問い合わせ・ご予約

まずはご相談ください。

電話アイコン

お電話でのお問い合わせ・ご予約

06-6947-1201

受付時間 平日9:30~17:30

メールアイコン

メールでのお問い合わせ・ご予約

ご予約フォーム
ページトップへ