■ はじめに
現在、「あらゆる分野で『指導的地位』に占める女性の割合」を増やしていこうとの取り組みが進められています。ジェンダー・アンバランスをなくし、多様な意見を意思決定の場に取り込んで、より風通しの良い社会を作って行こうとの動きです。
ただ、そうは言っても当然のことながら、ことは簡単ではありません。すでに出来上がったシステムは頑強で、人の意識や行動様式が一朝一夕で変わることはないからです。そこで、長年の性差別の積み重ねの結果ジェンダー・アンバランスが生じているのですから、状況を変えるために積極的な改善措置の導入が不可欠となります。いわゆるポジティヴ・アクションです。
前号のニュースレターで「弁護士会のリーダー選びとクオータ制」というテーマで書いたところ、何人かの方から感想やご意見をいただきました。弁護士会の中でもリーダー的ポジションに就く女性を増やすための方策につき議論が真っ最中であり、再度このテーマに触れたいと思います。
■ 多様なポジティヴ・アクションの手法
ポジティヴ・アクションの実現方法は多様です。
一定の人数や割合を割り当てることによって実現する方式(クオータ制)、達成すべき目標と達成までの期間の目安を示してその実現に努力する方式(ゴール・アンド・タイムテーブル方式)、女性の参画の拡大を図るための基盤整備を推進する方式などがあります。『ポジティヴ・アクション~「法による平等の技法」~』岩波新書・2011)の著者である辻村みよ子教授(東北大学)は、
・厳格なポジティヴ・アクションの例として、クオータ制を
・中庸なポジティヴ・アクションの例として、ゴール・アンド・タイムテーブル方式を
・穏健なポジティヴ・アクションの例として、両立支援などの支援策、環境整備を
積極的措置の態様として挙げています。クオータ制は「特効薬・即効薬」、他方、環境整備の取り組みは、緩やかな作用の「漢方薬」といった感じなのでしょう。
■ ポジティヴ・アクションの必要性
いずれにしても、ジェンダー・アンバランスの著しい我が国の現状を変えるためにポジティヴ・アクションが必要だということは社会の共通認識になっていると思うのですが、未だに「女性の参画を阻害する要因はもはや『ない』のに、なぜ、ポジティヴ・アクションが必要なのか」と述べる方がいます。つまり、「女性はリーダーに向いていない」とか「女は口を出すな」など誰も言ってないし、また、制度的にも性差に関係なくチャンスが与えられているのに、これ以上何が必要なのか、との意見です。
しかし、あからさまに邪魔をしたり、足引っ張りをするだけが、「阻害要因」なのでしょうか。リーダー的ポジションに就くまでの一般的道筋や、その地位(立場)の職務態様そのものが、意思決定の場から「女性を遠ざけている」場合が多いということに目を向ける必要があります。
例えば、およそ家庭生活と両立困難な時間的拘束を当然の前提としているような職務態様である場合、女性の多くは手を挙げることに躊躇します。期待される職務を全うするのに阻害要因があるのですから、「私はそれを担う自信がありません」「なりたいとも思いません」と遠ざかります。しかし、そもそも家庭責任を果たすことを一切考慮せずにシステムを作ってきた社会が問題なのです。そうであるならばパラダイムシフトが必要で、家庭生活と両立できないような職務形態そのものを「潔く変える」ことが必要なのではないでしょうか。そして、その変化は、変化を希求する人が加わらなければ具体化はしないと思います。
あからさまな足引っ張りだけを問題にするのは昔の話。今は、阻害要因の「実質」を真剣に考える時です。
■ポジティヴ・アクションを導入しても一部の女性の負担が重くなるだけ?!
また、こういう意見もよく耳にします。
「ポジティヴ・アクションを導入しても、女性の中にリーダー的ポジションに就こうと思う人がいなければ、意味がない。かえって一部の女性に負担がかかるだけではないのか」。これも切実な意見です。
確かに、組織に対する献身性や責任感といった「個人の意識」に働きかけ、また依拠する形で、リーダー的ポジションに推挙されるのであれば、される方の女性も負担感を持つでしょう。それが「数合わせ的」な動機でなされる場合であればなおさらです。けれども、「改革のために一緒に加わってもらいたい」「支障要因は個人の問題としてではなくみんなで解決していこう」という働きかけであれば、また、捉えられ方も変わってくるのではないでしょうか。
組織がきちんと目標を定め、全体としての取り組みを促進させることが大事で、ポジティヴ・アクションはその意味でもとても意義があります。
新しい風を生み出すためのポジティヴ・アクションです。