伝わってこないメッセージ
2021年(令和3年)10月から法務省の法制審議会刑事法(性犯罪)部会による審議がなされていますが、昨年10月24日、審議会から「試案」が出されました。「試案」の内容は多岐にわたるため、ここでは私達が求めてきた「不同意性交罪」といえるかどうかをみてみます。
現在の刑法では、「暴行または脅迫を用いて」、「性交、肛門性交又は口腔性交」をした者について「強制性交等罪」が成立します。そして「暴行または脅迫」の程度は、判例によって、「相手の反抗を著しく困難にさせる程度」とされています。そのため、被害者がどれだけ必死に抵抗したかが問われ、被害者に抵抗義務が課されているに等しくなっています。
判例には、被害者が「やめて」と言って、両足を閉じるなどの抵抗をしたものの、最終的に性交されてしまった事案について、被害者は性交に同意をしていなかったと認定しながらも、暴行の程度が弱いとして無罪になっているといった問題、「同意があると誤信した」と弁解する鈍感な加害者ほど「故意がない」として無罪になっているなどの問題があります。
2019年3月に全国で4件もの無罪判決が立て続けに出されたことをきっかけにフラワーデモや同意のない性交は処罰されるべきという「不同意性交罪」の導入を求める運動が巻き起こり、法改正に向けた今回の審議にいたった経緯があります。
審議会に先立って開かれた刑事法検討会では、「性犯罪の処罰規定の本質は、被害者が同意していないにもかかわらず、性的行為を行うことにある」とされ、法制審議会に期待が寄せられていましたが、今回の「試案」からは、No Means Noのメッセージは伝わってきませんでした。
「拒絶困難」でなければ犯罪にならない
「試案」は、ア暴行又は脅迫を用いること、イ心身に障害を生じさせること、ウアルコールまたは薬物を摂取させること、エ睡眠その他意識が明瞭でない状態にすること、オ拒絶するいとまをあたえないこと、カ予想と異なる事態に直面させて恐怖させ又は驚愕させること、キ虐待に起因する心理的反応を生じさせること、ク経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、その他これらに類する行為により、「人を拒絶困難(拒絶の意思を形成し、表明し、又は実現することが困難な状態)にさせて、性交等をすること」あるいは「拒絶困難であることに乗じて性交等をした者」を処罰するとしています。
すなわち、被害者が「拒絶困難」であったかどうかが問われることになります。
顔見知りの人から性行為を求められ、被害者が「嫌だ」と言い、「止めて欲しい」と伝え、拒絶の意思を形成し、表明し、実現しても(すなわち「拒絶困難」ではなかった場合でも)、被害者の意思が無視され、取り合ってもらえず、諦めるしかなかったという事例が少なくありません。しかも、判例は、肩に手をかけて引き寄せたり、服を脱がせたり、足を開かせたりする行為は、合意のある通常の性交でも伴うものとしているため、「暴行又は脅迫」と認定されないであろうこのようなケースで、加害者は処罰されるのでしょうか。「試案」からは読み取ることができません。
端的に「同意のない性交」、「拒まれたにもかかわらずなされた性交」を処罰する旨を明示し、その上で典型的な類型を例示し、「不同意性交」が処罰の対象となることを示すべきではないでしょうか。
諸外国では、自発的な参加(スウェーデン)、同意には性行為へのある程度の積極的な関与が必要(デンマーク)、意思を明確に表現する行為を通じて自由に表明された場合にのみ同意がある(スペイン)など、より積極的な同意がない場合には性犯罪とするYes Means Yesに舵を切っている中、日本でも、せめて真っ正面からわかりやすい不同意性交罪を打ち出すべきだと考えます。