5月12日、衆議院本会議で改正DV防止法が可決・成立しました。DV防止法では、被害者からの申立てにもとづき、裁判所がDV加害者に対し、被害者の身辺へのつきまといや住居等の付近の徘徊などの一定の行為を禁止する等の「保護命令」の制度が定められています。今回、この保護命令について、被害者保護の視点から大きな改正がありましたので、ご紹介します。
■ 精神的暴力への保護の拡大
現行法の保護命令では、申立てをすることができる被害者は、「身体的暴力」を受けた者又は「生命、身体に対する脅迫」を受けた者に限られていました。
けれども、過去の各種調査によって、配偶者から受けるダメージの中で、「精神的暴力」の苦痛を訴える被害者は多く、この被害者の保護が長年議論されてきました。「精神的暴力」とは、たとえば、「深夜に長時間説教をして寝かせない」「言うことを聞かないと裸の写真をばらまくぞと脅す」というように、言葉や態度で相手を追い詰めることをいいます。
今回の改正法では、保護命令を申し立てることができる被害者に「自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫を受けた者」を追加し、その要件を「更なる身体に対する暴力等により心身に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」に拡大しました。
また、接近禁止命令等の期間について、現行法では、6カ月とされていますが、改正法では1年に延長されました。これは、「離婚のための法的手続きの期間として6カ月では短い」「生活の平穏を取り戻すまでの期間として6カ月は短い」といった当事者の声が反映されたものです。
■禁止する連絡手段にSNS等を追加
保護命令の中の電話等禁止命令の対象となる行為に、現行法で禁止される「電話やメール」だけではなく、「連続して文書を送付し、又はSNS等により通信文等を送信すること」「性的羞恥心を害する電磁的記録を送信すること」「被害者の承諾を得ないで位置情報記録・送信装置によりその位置情報を取得すること」等が追加されました。
これは、時代の変化に合わせてSNS、デジタルツールを用いた被害を想定したものです。
さらに、被害者と同居する未成年の子への接近禁止命令の要件を満たす場合について、その子に対して、緊急やむを得ない場合を除き、連続して電話をかけること等を禁止する命令も創設されました。
■被害者が住居の所有者、賃借人であるときの特則の創設
これまで弁護士として被害者の相談を受けるとき、非常に悩ましい事例がありました。それは、被害者が所有する(あるいは賃借する)住居に加害者が同居するようになり、暴力を受けるようになったけれども、住宅ローン(あるいは家賃)を負担しているため逃げたくても逃げられないという被害者がいることです。身の危険があって避難したあとも、自分名義の住宅ローンや家賃を負担し続けなければならないという気の毒な被害者もいます。他方、相手方にも居住の自由という憲法上の権利がありますから、その両方の権利のバランスが問題となります。
DV防止法の「保護命令」の中には、DV加害者に対し、被害者と加害者が共に生活の本拠としている住居から一定期間退去することを命じる「退去命令」という種類があります。現行法の退去命令の期間は2カ月ですので、被害者は家に戻って荷物の引き取りはできても、加害者と交渉して将来的に出て行ってもらい借りている家の解約をするなど種々の問題を解決する期間としては極めて短いものでした。
改正法では、退去命令について、被害者及び配偶者が生活の本拠として使用する建物等の「所有者または賃借人が被害者のみである場合」には、退去命令の期間を6カ月間とする特則が設けられました。これはDV被害者にとっては一歩前進の改正だと考えられます。
■罰則の強化
保護命令に違反すると、現行法では「1年以下の懲役、100万円以下の罰金」という罰則が定められており、この刑事罰の定めによって実効性の確保が図られています。今回の改正法では、懲役刑の上限が2年に、罰金刑の上限が200万円に、それぞれ引き上げられ、加害者により厳しい罰則となりました。
■2024年4月1日からの施行
このように、今回の改正法では保護命令について被害者保護の視点からさまざまな改正がなされています。
被害者が被害者として正当に保護されることは、DV被害に苦しんでいる女性たちへの「被害を訴えてもいい、被害を口にしても前に進むことができる」という強いメッセージになります。
今回の改正法は来年4月1日から施行される予定です。きちんと運用がなされるよう、私たち弁護士も見守っていきたいと思います。