menumenu
電話アイコン

06-6947-1201

受付時間 平日9:30~17:30

お問い合わせ・ご予約はこちら

ニュースレター

2023年08月07日
DV子ども本の紹介
宮地 光子

発達障害とトラウマ  ~面会交流事件から見えてくるものと本の紹介 【弁護士 宮地光子】

1,面会交流後の子どもの変化

 

離婚をめぐる紛争のなかでも、面会交流は、子どもが関わり、しかも将来にわたる取り決めが求められるという点で、その解決には、頭を悩ませることが多い。

とりわけDV事件では、子どもに発達障がいがあるケースが少なくない。発達障がいは、脳機能の発達が関係する障がいであり、生まれつきのものであって、親のしつけや教育に問題があったものではないとされてきた。しかし、子どもの問題行動が、生まれつきのものであると断定してしまっていいのだろうかと、疑問を感じることが多い。

あるケースでは、妻は、夫の子どもや自分に対する暴言に耐えかねて、子どもを連れて別居したが、子どもは自閉スペクトラム症と診断された。小学校では、放課後デイサービスによる療育(発達支援)を受けてきた。そして数年にわたり中断していた父との面会交流を再開するにあたって、試行的面会交流が家庭裁判所で実施された。試行的面会交流自体は、問題なく実施されたが、その直後から、子どもに変化が現れた。放課後デイサービスでの職員の指示に従わず、他の児童に暴力を振るったり、暴言を吐いたりするようになった。

試行的面会交流実施後に、子どもが不安定になる事例は少なくないが、ここまでの変化が生じたケースは、これまでに経験したことがなかったので、文献を調べてみたところ、同様のケースがあった。

 本年1月に刊行された『面会交流と共同親権』(熊上崇・岡村晴美編著、明石書店、2023年)に掲載されていたアンケートである。このアンケートは、DVや虐待などを理由に別居・離婚を経験した当事者有志の団体「あんしん•あんぜんに暮らしたい親子の会」が実施したものである。この中に、以下のような同居親の声が掲載されていた。「2人とも自閉症があるのですが、面会交流をした前後はとても落ち着かず情緒不安定になり、前後1週間は学校も行けないほどでした。バッタリ会ったときやラインなどでの交流のあとは、つめかみ、ヘッドバンギング(頭を何度もゆらすこと)、貧乏ゆすり、不機嫌、不安定、多弁。イライラしていた。」

発達障がいが生まれつきのもので、親の接し方に問題があったものでないのであれば、なぜ面会交流後に、このような変化が子どもに現れるのだろうか。

 

2,発達障害とトラウマと解離の関係

 

 上記の疑問に答えてくれたのが、小野真樹著『発達障がいとトラウマ』(金子書房、2021年)であった。小野氏は、小児外科医として勤務した後、児童精神科医療への関心から、当時、この領域では第一人者の杉山登志郎医師(注1)が活躍されていた、あいち小児保健医療総合センターで研鑽を積まれた。

小野氏は、この本の中で、「発達障がいの最初の原因は『生まれつき』だったとしても、その特徴が顕在化するプロセスでは『育ちの環境』からも、大きな影響を受けているのです」としている。また「トラウマそのものが、発達障がいとほとんど変わらないような脳機能の苦手さを発生させることが分かってきた」とされている。そして小野氏は、トラウマを「強すぎる苦痛な感情を経験したことが原因で、感情をコントロールするための脳の仕組みが、正常に作動しなくなってしまった状態」と定義されている。

また小野氏は、人間の脳にある「ストレスシステム」の存在を説明されたうえで、災害や犯罪などで「ストレスシステム」が強すぎる反応をしたり、虐待やいじめなどの被害を受けて、慢性的に発動していたりすると、それが「トラウマ」となってしまうことがあるという。

ではなぜ強すぎるストレスはトラウマとなってしまうのか。小野氏は、この点を人間の脳の「不動化システム」という概念で説明している。「不動化システム」は、「ストレスシステム」が、有害なほどに過剰に発動した時に、逆にその活動を停止させてシャットダウンする「ブレーカー」のような役割を果すのだという。この時、まるで幽体離脱のように、こころが身体から切り離されたかのように感じることがあり、これが「解離」だと説明している。

そして小野氏は、児童相談所に入所した被虐待児のケースを例にとりながら、具体的な診断名をあてはめる難しさも指摘している。その被虐待児の症状は、「自閉スペクトラム」にも「ADHD」にも当てはまっているように思えたが、正式な診断基準とは微妙にずれているとしたうえ、その理由を「発達障がいの診断基準は、それが『生まれつきの原因によって発生した』という前提でつくられているからです」としている。そしてその被虐待児の症状をヴァン・デア・コークが提唱した「発達性トラウマ障がい」によくあてはまったとしている。

コークは、オランダの精神科医で、2005年に、DSM-5(アメリカの『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)に、収載すべき新しい診断名として「発達性トラウマ障がい」を提唱したが、残念ながら採用は見送られた。しかし被虐待児支援の現場では、このコークの提唱した新しい診断名こそが、被虐待児の症状を示すものとして受け止められている。

また小野氏は、「発達障がいとトラウマが混じりあった事例では、子どもの扱いづらさだけが強調されて、トラウマが原因で発生した問題があるということが見逃されていることがある」と指摘する。

小野氏は、すべての支援で最初に必要なことは「理解してつながる」ことであると言う。トラウマが原因で発生した問題があるということが見逃されては、「理解してつながること」はできない。事実をありのままに見ることの大切さを教えられる好著である。

 


1 杉山登志郎医師は、虐待を受けた子ども達が、発達障害とよく似た症状を呈することが多いことに着眼して、『子ども虐待という第四の発達障害』(学研プラス)という本を2007年に刊行されている。

Contact Us

お問い合わせ・ご予約

まずはご相談ください。

電話アイコン

お電話でのお問い合わせ・ご予約

06-6947-1201

受付時間 平日9:30~17:30

メールアイコン

メールでのお問い合わせ・ご予約

ご予約フォーム
ページトップへ