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2024年01月16日
結婚・離婚子ども面会・養育費

リレーエッセイ No.45 親の離婚経験を乗り越える子どもたち 愛知大学法学部教授 民法(家族法)ジェンダー法専攻 立石 直子(たていし・なおこ)

私自身の研究分野が家族法であるためか、担当する家族法の講義でも、ゼミでも、両親の離婚を経験した学生が毎年少なからず履修している。ゼミ生たちは、比較的フランクに、別居親との関係について相談したりもするようで(「結局、親の離婚の原因ってちゃんと聞いたことある?」とか、「将来結婚するとしたら、別居親には紹介すべきなんだろうか?」とか…)、なんとなく自助グループ化しているようにも見える。一方で、「一度も支払ってもらえなかった養育費を請求したい」「面会の時に養育費を手渡されるので、生活のために我慢して面会している」、このような切ない声もある。学生たちの生の経験は、私が日頃読む資料からは想像できないほど、多様で繊細な内容である。
なかでも、忘れられないのはKくんのことである。Kくんの両親は、Kくんが小学生の頃に離婚していた。Kくんはお母さんと暮らしていたが、近くに住むお父さんとは、大学生になっても面会交流が続いていた。そんなある日、Kくんはお父さんの車のトランクの底に、赤ちゃん用のグッズがあることに気づく。Kくんは、その瞬間、見てはいけないものを見たような気になった。そして、急にお父さんに対して不信感を持った。「再婚の話どころか、赤ちゃん、僕にとって義理のきょうだいが生まれているのに、お父さんは何も話してくれない」「お父さんは週末、僕と会っている。自分は、赤ちゃんや奥さんに恨まれているのではないか」。その後もKくんは、再婚家庭や赤ちゃんのことをお父さんに聞きたくて、でも聞けなくて悩んでいた。同居するお母さんにも聞けない。私に打ち明けてくれたときには、精神的なバランスを崩した状態で、不眠の症状がひどかった。心療内科にも通ったが、次第に父親との面会には行けなくなった。その後は、不安定なままお酒にのめり込み、アルコール依存症に陥った。そして、最終的には自ら大学をやめてしまったのである。
私は本当に無念な気持ちだった。大学1年生のKくんと出会ったとき、Kくんは別居親と面会を継続できていることを誇らしく話してくれた。大学受験についても、父母双方に相談してきたと言っていた。それなのに、「小さなボタンの掛け違い」によって、父との信頼関係もKくん自身の健康も、見る見るうちに失われていったのである。大人のように見えて、大学生は「大きな子ども」でもある。面会交流は、大きくなった子どもでさえ繊細なものであること、そして、長年継続できていた面会交流でさえ、一瞬にしてバランスを崩し、子どもの健康上の負担になることもあると思い知らされた。
近年では、ACE(Adverse Childhood Experience=逆境的小児期体験)が、子ども時代だけでなく、成人期以降の心身の健康に深刻な影響を及ぼすことが、さまざまな研究によって明らかにされている。ACEとは、18歳未満の小児期に体験するトラウマとなりうる出来事のことで、暴力や虐待の体験、家庭内での暴力の目撃などに加え、子どもが安心感を損なう家庭での環境要因についても、ACEの一側面であるとされる。後者には、親の別居や離婚のほか、家族の薬物使用や親の受刑などが挙げられる。ACEは発達や健康上の問題につながり、教育や雇用に関しても負の影響へとつながる。とはいえ、多くの人がACE経験をもつ。アメリカでの調査では、成人の約64%が、18歳までに少なくとも1種類のACE経験をもつと報告されている。すなわちACEは特別なものではない。ただ、予防することやその影響から子どもを守ることができると考えられている。もちろん、DVや児童虐待など家庭内の暴力はなくすことができるはずだし、負の環境要因は、その影響をできるだけ少なくできるよう対策が講じられるべきだとされる。
現在、離婚後の面会交流の積極的な実施や共同親権制度の導入の議論が活発であるが、まずは、親の離婚という子どもの経験が、子ども時代にも、その先の成人期にも、負の影響につながる可能性があると認識したうえで、子どもの福祉に資する制度を確立していく必要がある。そのあり方は一様ではなく、まさにケースバイケースであり、どのような親子、父母の関係にも汎用できる制度設計が意識されなければならない。無論、子どもを暴力の環境に晒した親の責任については、当然問われなくてはならないと考える。
(学生の個人的な経験については、内容を一部変えています)

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