■「男女不平等」が当たり前の時代に生きた人たち
NHKの朝ドラ、今期は日本で初の女性弁護士、三淵嘉子さんがモデルの話だと知り、見始めました。そしてハマっています。いま、「虎に翼」が面白い! 何が面白いか?
まず、私自身が弁護士という職に就きながら、三淵さんのことを知らなかったので、当時の状況に想いを巡らせる面白さです。モデルとなった三淵さんが高等試験司法科(現司法試験)に合格したのが今から86年前の1938(S13)年。女性に参政権はなく「男女不平等」が当たり前だった時代です。
ドラマの中で主人公の寅ちゃんは、たまたま大学の廊下で耳にした「婚姻状態にある女性は無能力者だから」という言葉に、「はぁ?」と反応し、そのエピソードがきっかけとなり法科に進むストーリーになっています。当時既婚女性は自分の財産すら自ら権利行使できなかったのは事実。そして、試験を受け弁護士になる道が閉ざされていた時代に、実際の三淵さんは明治大学専門部女子部法科に進学。これは父親のすすめだったとのことです。
もちろん、当時のことを本で知ることもできます。でも活字で知るのとはまた違って、よく練られた脚本、巧い役者さん、ユーモアたっぷりの心憎い演出によって、先駆者三淵さんとその時代を生きた人達のことが生き生きと描かれていて興味が尽きないのです。
■「名もなき人」の存在や発する言葉を丁寧にひろう脚本
時代の先駆者がモデルのドラマだと、ともすれば「偉い人がいるものだ!」「飛び抜けた能力の人がいるものだ!」と、特別な人、畏敬の対象として扱われがちです。実際、モデルとなった三淵さんの行動力や能力、実績が素晴らしいのは疑う余地もありません。でも、このドラマでは「飛び抜けた能力をもつヒロイン」だけではなく、「名もなき人」の存在や発する言葉を丁寧にひろっているのがいい。そこが、視聴者の大きな共感を呼ぶものになっているように思います。
難関の試験に合格し、祝宴の場で記者から「日本で一番優秀なご婦人方」と讃えられたときに寅ちゃんが返した言葉が印象的でした。「高等試験に合格しただけで、自分が女性の中で一番なんて口が裂けても言えません」と口を開き、そして、志なかばで受験を断念した仲間や、そもそも「学ぶ」という選択肢を持たなかった人たちに思いを馳せながら、「私は怒っている」と切り出します。彼女もまた、死ぬほど頑張って試験を突破したにもかかわらず、同じ試験に合格した男性には裁判官や検察官になる選択肢があるのに女性にはそれがないことへの憤りを口にするのです。「男か女かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います。いや、みんなでしませんか? しましょうよ」と啖呵を切る。カッコイイです。
もちろん名前のない人なんて居らず、みな自分の名前をもっています。でも、置かれた境遇の中で一生懸命生きていても、ほとんどの人は功名や功績とは無縁に生きています。でも、そういった人と自分も「地続き」にいることを自覚し、理不尽なことへ「はて?」と口にし、言葉と行動で変えていくヒロインに共感が広がるのでしょう。
■「男女不平等」を「男女平等」に転換させた憲法14条
戦争で夫を亡くし失意の中、河原でひとり焼き鳥を食べるシーンも心に残るものでした。「しっかりするんだよ」と闇市の女性が手渡した焼き鳥を包んだ新聞紙に日本国憲法が載っていたシーンです。「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、……差別されない」という憲法14条の文言が、焼き鳥のタレで汚れた新聞紙から浮かび上がってきて寅ちゃんを勇気づける。なんて秀逸なシーンなのかと思います。
さて、「虎に翼」もいよいよ終盤。寅ちゃんも裁判官となり、志なかばで消えていった仲間たちが再登場することでしょう。家庭裁判所が設立当初どういうものであったのかにも興味が沸きます。
普段、朝ドラの話などしない同業の男性陣にも評判がいい。80年前に生きた寅ちゃん達と今を生きる私達もまた「地続き」で生きているからなのでしょう。