一昨年夏のニュースレター(vol.42)で、「『面会交流原則実施論』見直しの動きについて」と題し、直接交流を認めなかった審判を紹介させていただきましたが、本年3月にも、直接交流を認めない審判を得ましたので、続報としてご報告させていただきます。
面前DVでも直接交流を命じた原審判
審判の対象となった事案は、父(申立人)が飲酒のうえ、母(相手方)に対して暴言を吐いたり、未成年者(同居時0歳)の居る自宅内で、器物を多数損壊したり、未成年者を抱いている母の顎をつかみ、後頭部を壁に打ち付ける暴力を振るうなどの粗暴な行為に及んでいたもので、母は、未成年者を連れて、一時保護され(別居時未成年者1歳)、以来、別居状態が続いているものです。
令和3年8月になされた大阪家裁(原審)の審判は、上記のような父の粗暴な行為を認定しながら、父が未成年者に対して、暴言を吐いたり、暴力を振るったわけでははないとして、子が父親という存在を実感することの重要性から、月1回の直接的な面会交流を実施していくことが相当としました。
この審判に対して、母は即時抗告を行い、私は、抗告審から受任しました。抗告審では、母が別居後、心療内科を受診するようになり、「心因反応」と診断され通院していることや、母が医師に訴えている内容からも、面会交流を求められることが、母に強い精神的ストレスを与えていることが明らかであるとして、診断書やカルテ等を証拠として提出しました。そして月1回の面会交流の実施は、母の未成年者に対する監護の質を著しく低下させると主張しました。
また原審では、試行的面会交流も実施しないままに、上記のような審判がなされていたことから、この点においても、原審判の不当性を主張したところ、抗告審の大阪高裁は、同年12月、原審判を取り消し、大阪家裁へ差し戻す決定を行いました。
父母間の信頼関係・協力関係の欠如から直接交流を認めなかった差戻審
差戻審では、令和4年11月に試行的面会交流が実施されましたが、母は、この試行的面会交流時に、精神状態をさらに悪化させたため、その状況を、カルテや投薬の経緯等で主張立証しました。
このような経過を経て、差戻審の審判が本年3月にありました。審判は「子の健全な成長にかなう交流の実施のためには、子の父母間に子の親としての最低限の信頼関係や協力関係が存在し、子にとって安心かつ安全な環境が準備されていることが重要な前提となる。そのような前提のないまま子と別居親の交流を実施しようとすれば、子が父母間の紛争に巻き込まれたり、父母の高葛藤による直接ないし間接の影響を受けることにより、子に不安や混乱が生じたりするなど子に少なからぬ悪影響を生じるおそれがあり、そのような事態となればかえって子の健全な成長を阻害する結果となりかねない。」との大前提を、まず判示しました。
そのうえで、差戻審の審判は、同居中の父の粗暴な行為から、母が父に恐怖心を抱いていること、母が家裁の手続きに起因する心身の不調を訴えていること、試行的面会交流において、母は実施前に未成年者の前で涙を出したり、実施中はモニター室から試行の様子を見ようとして、その場から動けなくなるなど、不安定な様子を示したこと、試行的面会交流の終了後に、父が、未成年者の発語が少ないことを、母の育て方に問題があるかのように非難したことなどを指摘したうえで、「現時点において申立人と未成年者との直接の面会交流を実施することは、仮に第三者機関による支援を得たとしても、未成年者に負担を与えるおそれがあり、かつ、相手方の心情不安や体調不良を招くことにより未成年者の監護環境に悪影響を生じるおそれを否定できず、ひいては未成年者の健全な成長にそぐわない結果を招きかねない。」と判示し、直接交流を認めず、年1回の父からのプレゼント送付と、年4回の母からの未成年者の写真送付という間接交流のみを認めました(なお、この審判は、父(申立人)も抗告せず、確定しました)。
面会交流事件において、子を監護している親の心身の安全を確保することこそが、子の利益につながるという当然の判断が、これからも積み重ねられていくことを願っています。