【買い物代行の役割を超えた「芽でるカー」】
2013年10月26日・27日の2日間に渡って開催された、第16回全国シェルターシンポジウム「性暴力禁止法の制定に向けてつながる、ひろげる、パープルネット ~女性・子どもに対する暴力の根絶~」について、ご報告いたします。
このシェルターシンポジウムは、主にDV、性暴力、ストーカー等の被害から逃れるため、安全な住まいを必要とする女性のためのシェルターを運営する団体が全国から集まり、毎年開催されているものです。今年で16回目を迎え、今回は、岩手県盛岡市で開催されました。
初日は、開会セレモニーと基調講演「大震災から立ち上がる女性たち~芽でるカーが走る」、シンポジウム「女性と貧困」が行われ、2日目は、午前・午後それぞれ6つの分科会が行われました。
基調講演での「芽でるカー」というのは、東日本大震災後、自らも被災者である女性たちが、自らの働く場を生み出すとともに、被災者の生活支援を行うために立ち上げた「買い物代行と安否確認」事業で、買い物の代行等のために利用していた自動車の名称です。
この事業は、主に利用者の要望に応えて買い物の代行を行うものですが、事業を継続していくうちに地域の人々が心を開いて悩み事等を相談するようになり、別の支援機関につなぐ等、買い物の代行を超えた役割を担うようになったそうです。
例えば、プリンを1つ購入するにも、メーカー名や商品名を細かく確認するという生活者としての目線を大切にした活動を行っていたそうですが、その根底には、いつも食べていたものを同じように食べて、日常を取り戻してゆくという強い思いがあったそうです。
同じ方言を話し、同じ被害を体験した被災者同士だから可能となった事業ですが、この事業は、厚生労働省の「緊急雇用創出事業」として立ち上げられたものであり、残念ながら、今年度で終了するとのことでした。
【支援を届けることの難しさ、重要さ】
シンポジウムでは、戒能民江お茶の水大学名誉教授、大沢真理東京大学社会科学研究所教授、近藤恵子NPO法人全国シェルターネット共同代表の3名からの報告がありました。
戒能教授からは、女性と貧困について、主に法的側面から、DV被害女性への支援施策や女性を取り巻く雇用状況等の報告があり、福祉・労働・教育・住宅等の縦割りではなく、総合的な女性支援が求められているとの指摘がありました。
大沢教授からは、各種統計を駆使し、目本の女性のおかれている貧困状況についての国際比較が行われ、近藤代表からは、シェルターを利用する女性たちの生活や雇用の現状や、DV被害女性の多くが精神的な不調を抱え、継続的な就労が困難であること等の報告がなされました。
同シンポジウムでは、貧困や格差の拡大によって、社会の中での人と人との相互の信頼関係が失われ、相互に助け合うという意識が消失することにより、社会全体の安心感や安全が損なわれてしまうという重要な指摘がありました。
貧困という問題の解決のためには、貧困に陥った方の生活状況を改善しさえすればよいのではなく、貧困を生み出す社会構造や労働環境の改善が必須であり、その背景にある女性への差別の解消も不可欠です。
また、例えば高校を中退して出産し、シングルマザーとして孤立しつつ働いてきた女性が、現在の不況や心身の疾患等で職を失うと、福祉や行政の助けが届かず、非常に困窮してしまう、という指摘がありました。現在、30代の中卒の女性の貧困率は、40%にも上るそうです。
どこにどのように助けを求めてよいか分からなくなっている女性には、皆で「よってたかって支援」をする必要があり、社会から置き去りにされることを防がねばならないとの言葉には、とても説得力がありました。
支援は、もちろん、支援を受ける方の自立のために行われるものですが、自分か支援を受けられるということにすら気づいていない女性も多く、支援を届けるということの難しさと重要さを実感しました。